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世 界のサンゴ礁保全 日本はサンゴ礁を保全できるの か?
PADI JAPAN(世界最大 の潜水教育組織日本ブランチ)
THE UNDERSEA JOURNAL Second Quarter 2003
米国PADI本部・年4回発行。翻訳のため日本は9月発行。
海外の現在のサンゴ礁保全概念を、あまりに生態学的視点の未熟な国内の研究者やサンゴ礁に関心 を持つ人々に伝えます。
これらは、PADI JAPANによる翻訳文を原作者とPADI JAPANの了解を得て転載しています。 ダイブクリエイト佐伯信雄
 
危機にさらされるエコロジー(P3)
   ドリュ・リチャードソン編集長
サンゴ礁の実体(P5〜9)
   マクギリヴレイ・フリーマン・フィルムズ
サンゴの白化 次のダイビングまで500年待つ?(P10〜11)
   アレックス・F・ブライルスキ
今またオニヒトデの異常発生、サンゴ礁を食い尽くす(P14〜 16)
   アレックス・F・ブライルスキ
サンゴ礁は医薬品の宝庫(P17〜 23)
   アンドリュー・W・ブラックナー
世界のサンゴ礁の状態に関する詳細レポート(P34)
サ ンゴ礁:危機にさらされるエコロジー
ドリゥ・リチャードソン編集長

“私たちは創造に立会い、そしてそれを賛 助する”
アン・ディラード

ウェスレイアン大学で教鞭をとる作家、エッセイスト、 詩人、回顧録作家、批評家

 人類は何千年もの間、サンゴ礁の エ コシステムと共存してき ました。サンゴ礁は先進国でも発展途上国でも、多くの国家において地域社会の文化や経済成長に重要な役割を果たしています。美しさに惹かれて、世界各地か ら何百万人もの観光客がサンゴ礁を見にやってきます。サンゴ礁はまた、製薬など様々な製品に利用できる生化学物質としての価値も有しています。生物の多様 性を生み出す壮大な源でもあります。
 
 しかしながら、そういった価値が秘められているのにも関わらず、乱開発、破壊的な漁業、陸地から流れ出る 土壌の堆積、 汚染など人間の様々な活動によって、世界中のサンゴ礁が未だかつてないほどの脅威にさらされています。さらに、地球規模の気候の変化や海水面温度の上昇が 脅威に拍車をかけており、頻繁に過酷なサンゴの白化現象が生じています。様々な環境的ひずみが累積し、世界中のサンゴ礁の未来が脅かされていることを警告 しているのです。
 
 サンゴ礁が重大な危機に瀕しているという認識は広まっているのにも関わらず、研究調査や監視体制が欠如していることもあって、各国のサンゴ礁が どの程度の脅威にさらされているかに関する情報は限られています。そのため、沿岸資源管理に関する有効な意思決定ができないという現状にあります。より広 範な調査を実施しなければなりません。サンゴ礁に悪影響を及ぼす人間活動を理解することが、今後の環境保護や資源計画にとって重要です。十分な調査から得 た確実なデータに基づく意思決定が、サンゴ礁の健全な管理にとって必要不可欠だと言えます。
 
 現在の動向を変えるには、政治的な関心を高め、資金を確保する必要があります。将来にわたってサンゴ礁の活力と生存力を保護するには、この問題 を政府の関係各省庁で優先的に取り上げてもらわなければなりません。これには、管理の行き届いたサンゴ礁の価値について、一般の人々もきちんとした知識や 情報を得て、世論を高めていく必要があります。海洋保護地域を確立し、破壊的な漁業や乱獲を止めさせ、将来にわたって持続可能な観光業を育成し、健全な開 発を推進し、地球規模の気候の変化と温暖化を加速させている排出ガスを規制する政策を導入するには、一般の人たちがそれぞれ関心を持ち、政治的な行動を支 援するという姿勢が必要です。ダイバーは幸いなことに、この目的に向かっての役割と責任を果たす機会に恵まれています。サンゴ礁の環境は、ダイバーである 私たちが心から大切に思っている貴重な資源です。そして私たちは、自ら行動することを選びさえすれば、ひとりひとりがサンゴ礁を守る力を持っているので す。
 
 行動を起こし、自分の意見を表明する方法のひとつが、プロジェクトAWAREの運動に賛同し、その支援者になるというものです。特に、プロジェ クトAWAREのサンゴ礁保護キャンペーンは、サンゴ礁の経済有用性や生態学的価値に関する知識を広め、人間の様々な活動によってサンゴ礁にどの程度の危 機や損傷や破壊が及んでいるかに対する一般の認識を高めることを主眼としています。
 
 プロジェクトAWAREやサンゴ礁保護キャンペーン、またその他の様々な環境保護運動については、www.projectaware.orgを ご覧ください。
 
 最後に、私自身の個人的な理念について少しお話したいと思います。私はこれまでに、友人、親戚、知人を含めて何百万人もの人々と何らかの形で関 わってきたわけですが、その認識に基づいて、私は自分自身を地球というこの惑星に招かれた客人のひとりだと見ています。技術を利用して周囲の環境を操作で きるほどにまで進化した人類という種は、自分たちだけの幸福を追求するという段階をはるかに超えていると思います。人類は自分たちを、自然の中に生きる人 間ではなく、自然と人間は分離したものという形で見ているのではないでしょうか。これは大きな間違いだと思います。自分たちは無敵だという傲慢さが人間の 心の中に徐々に入り込み、人類は生物学的に独立した生き物だという誤った安心感を作り出しているのではないかと思います。核兵器などの大量破壊兵器で自分 たち自身の存在を脅かそうとしている昨今の風潮を考えてみてください。人類が自らの首を絞めているとしか思えません。
 
 人類がどこへ向かっているのか私にはわかりませんが、ひとつだけ確信できるのは、生命の循環は尊く、束の間ではかなく、そして守るべき価値のあるものだ ということです。海、そして特にサンゴ礁の生態系は、私たちに生き生きとした生命力を与えてくれるものであ り、国家を超えた地球規模の預かり物なのです。私はこの地球上で客人として暮らしている間に、海とサンゴ礁の未来を見守る感性を持つ人がで きるだけ増えて欲しいと願っています。私たちが地球上で暮らせる時間は束の間であり、ダイバーはこの責任に対して背を向けてはなりません。
 
 フランスに、私たちひとりひとりに当てはまるLes annees perduという格言があります。これは失われた年月という意味で、無関心や怠慢により無駄に過ごしてしまった時間です。地球全体が危機に直面している重 大事に、無関心で時間を失いたくはありません。地球のサンゴ礁には、もうこれ以上の喪失に耐える余裕はありません。後で考えようでは遅すぎるのです。今す ぐに行動を起こしてください。やらなければならないことはたくさんあります。

サン ゴ礁の実体
世界のサンゴ礁に関する事実と 情報源
マクギリヴレイ・フリーマン・フィルムズ

世界のサンゴ礁が危機に瀕しています。
乱獲、沿岸開発、地球温暖化による海面上昇などが、傷つきやすく繊細なサンゴを荒廃させ、
サンゴ礁が育んでいる生命のネットワークを破壊しています。
サンゴ礁に関する教育、監視、管理を行っているリーフ・チェック(Reef Check)と国連の地球
規模サンゴ礁モニタリング・ネットワーク(Global Coral Reef Monitoring Network)によると、
過去4年間で世界のサンゴ礁の10%が死滅し、4分の1近くがダメージを受けています。
残っているサンゴ礁の半分以上が重大な危機に瀕しており、現在の傾向がこのまま続けば、サンゴは
今後40年間で完全に消滅してしまう恐れがあると科学者は指摘しています。
幸いな事に、この傾向を食い止め、残っているサンゴ礁を再生させるための新しく持続可能な方法を
考える事に対し、世界的な気運が盛り上がって来ています。

 サンゴ礁に関する驚くべき事実
  • 海洋生物の25%以上がサンゴ礁を住居としていますが、サンゴ礁が占める割合は全海洋床面積の1%以下です。
  • サンゴ礁は1億年以上前から存在しており、地球上で最大の生きている構造物です。長さ2000キロ以上に及ぶグレート・バリア・ リーフは、宇宙空間から もみる事が出来ます。
  • 科学者によると、ひとつのサンゴ礁に3000種もの生き物が生息しています。
  • サンゴ礁は海岸線を浸食や嵐の被害から守っています。金額に換算すると、サンゴ礁1平方メートル当たりで4万7000ドルに相当 する資産を保護している 事になります。サンゴ礁が無いとフロリダ州の一部は海底に沈んでしまいます。
  • サンゴ礁は医薬品の宝庫で、抗ヒスタミン薬や抗生物質を始め、ぜんそく、白血病、心臓病など様々な疾病に用いられる薬の原料とな る物質を提供してくれます。ガンの新薬に関する研究の半分以上が海洋生物に集点を当てています。
  • 世界中で3億5000万人以上の人が、サンゴ礁から生活の糧を得る暮らしをしています。
  • サンゴは動物で、岩でもなければ植物でもなく、固い種類と柔らかい種類の2つのタイプがあります。
  • 深い場所に生息するサンゴの中には、成長速度が非常に遅く、1000年間でわずか30センチほどしか成長しないものもあります。 一方、浅い場所に生息するサンゴの中には、1年で15センチほど成長するものもあります。
  • サンゴの生育には非常に特定的な条件が必要です。水温や太陽光の量など生育条件の幅は狭く、汚染のレベルも低くないとサンゴは生 きられません。
  • これまでに、1400万ヘクタール以上のサンゴ礁が人間の活動によって破壊されてしまいました。リーフチェックのデータによる と、過去4年間だけで世界のサンゴ礁の10%が死滅し、残っているサンゴ礁を守るための断固たる行動を直ちに起こさないと、この数字は2010年までに 20〜30%になるだろうと予想されています。
  • 過去5年間で1500人以上のダイバーと150人の科学者がリーフチェックの監視プログラムに参加し、2002年のレポート『サ ンゴ礁危機:傾向と解決策』のためのデータを収集しました。
 サンゴ礁への脅威
  • 世界の人口の75%以上が沿岸地域に住んでおり、乱獲、汚染、直接的な物理的なダメージといったような 脅威をサンゴ礁に与えています。
  • 爆薬や薬品を使った漁業は、魚だけでなくサンゴ礁も殺します。フィリピンでは、年間およそ18万キロも のシアン化物が海に投げ込まれており、サンゴ礁に著しいダメージを与えています。
  • ずさんな開発や建設工事で陸地の表土 が海に流出して沈殿し、細かい沈泥や粘度でサンゴ礁が泥をかぶった ような状態になり、生育に必要な太陽光がサンゴに届かなくなります。
  • 下水、油、様々な化学物質による水質汚染はサンゴ礁に害を及ぼします。また、普通のゴミを海に捨てる事 でも、サンゴ礁に棲む生き物を殺してしまいます。魚や亀の胃からビニール袋が見つかったという例が多数報告されています。
  • 海岸に沿った動植物の生息地の形を変え、マングローブの林を伐採するというような沿岸開発も、壊れやす い海の生態系を脅かします。
  • ボート、ダイビング、魚釣りなどのリクリエーションも、サンゴを不用意につかんだり、上を歩いたり、採 集したりすることにより、サンゴ礁に大きなダメージを与えます。
  • おそらく地球の温暖化が健全なサンゴ礁に対する最も重大な脅威でしょう。海水温は今後20年間 で数度は 上昇すると科学者は予測しています。水温が高くなりすぎると、サンゴは“白化”し、やがて死んでしまいます。
  地域別のサンゴ礁の状態

 南太平洋
南太平洋には世界で指折りの美しいサンゴ礁があり、健全に生育している場所もあれば、警戒を要する早さで失われている場所もあ ります。何世紀にも渡って、連綿と脈動する島の文化が海に関する様々な神話や伝説を生み出した場所であり、サンゴ礁を救おうという緊急の戦いがすでに本格 的に始まっています。最近行われた調査によると、太平洋のサンゴ礁の約70%が良好な状態に保たれており、残りの30%は中程度または劣悪な状態だと評価 されました。さらに、有毒物質を使って漁をする国からきた遠洋漁船の影響で、人間の住んでいる場所から遠くはなれたサンゴ礁の多くが多大なダメージを受け ています。国連の世界遺産として国内的にも国際的にも保護されているオーストラリアのグレート・バリア・リーフは、漁業、観光、海運などで危機に直面して いるものの、良好な状態に保たれています。メラネシア(フィジー、パプアニューギニア、ニューカレドニア、ソロモン諸島)では、サンゴの生息地に対する人 間の影響を制限するという地元の伝統的な漁法規制のおかげで、多くのサンゴ礁がなんとか持ちこたえています。しかしながら、沿岸の建設工事や土壌の浸食に より、フィジーなどメラネシアの多くの島のサンゴ礁がダメージを受けています。乱獲も問題となっており、特に外国政府が漁業権を持っている場所では深刻な 影響が出ています。タヒチやモーレアがあるポリネシア、アメリカ領サモア、トンガでは、建設工事、農業開発、乱獲などによるダメージに加えて、自然災害で 引き起こされた巨大な波でサンゴ礁が大きな被害を受けました。この地域に点在する小さな島の経済はほぼ完全に漁業に依存しているため、健全なサンゴ礁は人 が生きていくのに必要不可欠であり、サンゴ礁を保護する事に対して積極的な取り組みが促進されています。水温の上昇で脅かされてはいるものの、グレート・ バリア・リーフは様々な海の生き物の宝庫であり、年間10億米ドル以上もの観光収入をもたらしています。ここには、400種以上の造礁サンゴが生息してい ると見積もられています。
 アメリカ大陸
米国では、サンゴ礁がフロリダ州の南端に長いカーブを描いて“尻尾”の形に点在する島々を形成しており、その多くが370キロメートルに渡ってサンゴ礁を 保護しているフロリダ・キーズ海洋保護区の一部になっています。保護に対する取り組みは行われているものの、フロリダ州のサンゴ礁もじりじりと間違いな く衰退が進んでいると一部の学者は懸念しています。海水温の上昇がサンゴの白化に拍車をかけている一方、エバーグレーズ国立公園、フロリダ湾、
フ ロリダ・キーズにおける観光客の増加と人口増が悪影響をもたらしていることも否定出来ません。ポリネシアに属するハワイ州では、サンゴ礁が観光の目玉のひ とつになっています(注:地理的に見ると、ハワイは北回帰線と赤道の北に位置しているため南太平洋には属しませんが、ハワイ周辺のサンゴ礁の動物相は南太 平洋の動物相と 生物学的に関連しています)。米国に属するサンゴ礁の80%以上がハワイにあり、最新で最大のサンゴ礁公園である北部ハワイ諸島国立海洋保護区にあるサン ゴ礁は、米国の全サンゴ礁の68%を占める規模です。その他、テキサス州とルイジアナ州境の南にあるフラワー・ガーデン・バンクス、プエルトリコ沿岸沖、 アメリカ領ヴージン諸島、そしてグァムにサンゴ礁があります。サンゴ礁からの漁業収益は、合計して年間75000万米ドルになります。またアメリカ大陸に は、バハマ・バンクス群島沖に大部分が未開発の大規模なサンゴ礁があり、さらに世界で2番目に大きなバリア・リーフであるメソアメリカン・バリア・リーフ は、メキシコ、ベリーズ、ホンジュラスの沿岸に沿って約600キロに渡って伸びる広大な未踏のサンゴ礁で、驚くほど健全であり、原始の状態が保たれていま す。ジャマイカでは、ネグリル周辺のサンゴ礁が観光スポットになっていますが、人気を集めるサンゴ礁にどのようなことが起こりえるかを例示しています。ネ グリルのサンゴ礁はかってカリブ海で最も人気のあるダイビング・スポットのひとつでしたが、乱獲され、ウニがいなくなってしまうという被害を受けました。 ここのサンゴ礁では、生長の早い藻類が繁茂しすぎるのを魚とウニが食い止めるという役割を果たしていました。1980年代に入ると、魚とウニが減ったこと で藻類がとめどなく蔓延するようになり、サンゴで覆われている海底面積が以前の78〜80%からたったの5%まで減少してしまったのです。現在、学者と地 元住民が協力して、乱獲を規制することによって被害を食い止める取り組みが行われており、ウニが戻るのを待っています。ジャマイカと同様に、他のカリブ諸 国や中南米の沿岸諸国でも急激な開発が被害を及ぼしていますが、壊れやすいサンゴ礁を守ろうという国や地域による新たな対策が動き始めています。
 アジア
南太平洋と同じく、アジアにも世界で最も有名な島々、砂浜、生命あふれる鮮やかなラグーンがあります。しかしながら、この地域のサンゴ礁の多くが世界で最 も深刻な危機に瀕しています。アジアのサンゴ礁のほとんどが、今後数十年間で激しく衰退するだろうと予想されています。現在、アジアのサンゴ礁には100 種類以上の海鳥が生息し、20種類もの海中植物を見ることができます。しかし、アジアの人口は今後25年間で倍増すると見込まれており、サンゴ礁のさらな る乱開発も進むものと思われます。3万以上の島々からなるインドネシアの沿岸には、多数の壮大なサンゴ礁が広がっています。人口が集中している地域から遠 くはなれた場所にあるサンゴ礁は生き物に満ちあふれていますが、ジャワ島やスマトラ島に近い場所では、人間が引き起こした汚染や沈殿により、サンゴ礁が著 しく衰退しています。マレーシアのサンゴ礁の多くも危機に瀕していると見られており、ベトナムでは、水産養殖場の建設と沿岸の干拓事業により、1945年 と比較してサンゴ礁のマングローブが45%以上も減少してしまいました。フィリッピンでは、シアン化物と爆薬を使った漁業により、沖合のサンゴ礁が著しく 荒廃してしまっています。最近では、フィリッピンのサンゴ礁の生産力は3分の1近く 減退し、約30%が死滅したと宣言されています。中国、日本、シンガポールでも、沿岸開発がサンゴ礁に被害を及ぼしています。しかし、希望の兆しもありま す。タイの美しいアンダマン海では、健康なサンゴ礁が勢いよく生育しています。
 アフリカ、インド洋、中東
多くの東アフリカ諸国が、広大で生物学的な多様さを誇るインド洋に接しています。ソマリア、ケニア、タンザニア、モザンビークの沿岸やザンジバル島にサン ゴ礁があります。マダガスカル、モーリシャス、リユニオン、コモロなどの島の周囲にもサンゴ礁が広がっています。その約80%が良好な状態ですが、急速に 増えている人口に伴う脅威から免れることは出来ません。ダイナマイトや有害物質を使用した違法漁業が普及し、砂の採掘も広範囲に行われています(モーリ シャスでは、毎年約45万3600トンのサンゴの砂が掘削されています)。アフリカのサンゴ礁に関しては科学的な調査がほとんど実施されていないため、死 滅したり破壊されたりした場合には、人類を苦しめている様々な病気の治療方法なども含めて、計り知れない尊い知識がサンゴ礁とともに解明されることなく失 われてしまうことになります。明るい兆しとして、現在、ケニアに4つのサンゴ礁海洋公園と5つの海洋保護区が設立され、ケニア野生動物公社はサンゴ礁を有 害開発から守る管理計画を導入しています。インドとスリランカの沿岸地域にも人口が密集し、生計をサンゴ礁に依存している暮らしをしています。実際、スリ ランカの人口が必要とする食料の65%が、サンゴ礁の海洋生物によって満たされています。しかしながら、この地域のサンゴ礁も、乱獲、採掘、観光、産業汚 染などによって深刻な危機にさらされています。またこの地域では、サンゴ礁に生息する熱帯魚を捕獲して水族館や一般家庭用に売る商売が盛んに行われてお り、スリランカとモルディブに固有の種が減少するという問題が起きています。これに対し、サンゴ礁の重要性と保護の必要性を地元住民に教える公的教育プロ グラムを開発するという取り組みが現在行われています。中東の紅海には壮大なサンゴ礁が発達しており、リーフチェックが実施した調査では、世界で最も健康 なサンゴ礁と見なされています。しかしながら、その一部もやはり危機に瀕しており、主として石油産業と観光リゾート開発が原因です。イエメン、オマーン、 アラビヤ湾では、石油汚染とずさんな沿岸開発により、サンゴ礁が激しいダメージを受けています。しかし、エジプト、イスラエル、バーレーン、ジブチ、イラ ン、オマーン、サウジアラビヤ、ヨルダン、スーダンにはサンゴ礁保護区があります。
 リーフレスキュー
私たちに出来ることは何か:
  • サンゴ礁、サンゴ礁に生息する種、サンゴ礁が世界に提供している恩恵など につ いて学習し、学んだことを他の人に伝える。サンゴ礁についての知識が増えれ ば増えるほど、その価値を深く認識し尊重するようになります。
  • 農薬や化学肥料の使用を出来るだけ減らす。こういった物質は流域や海に流れ込 んで汚染源になります。
  • 沿岸の水質を改善し、サンゴ礁を保護する国の政策や事業を強化するよう政治家 に働きかける。
  • サンゴ礁でダイビングやスノーケリングをするときには、地元の条例や習慣を守 り、絶対にサンゴに触ったり上に立ったりしてはいけない。サンゴは繊細な生 き物で、ほんの少し触れるだけでも傷つけてしまうことがあり、何百人ものダイバーが繰り返し触ると死んでしまいます。
  • リサイクル、これは、地球や海に人間が及ぼす影響を減らすために、誰にでもで きる最も大きなことのひとつです。
  • ダメージを与えるような方法で捕獲されたのではない認定種のみを販売している 熱帯魚ショップをサポートする。
  • サンゴ礁の調査と保全に対する連邦政府の資金を増やすように地元の政治家に働 きかける。
  • ビーチや海中にゴミを捨てない。
  • サンゴ礁にアンカーを打たない。
  • 水辺のクリーンアップや有害種を取り除く活動を行っている団体にボランティア で参加する。海のそばに住んでいなくても、すべての水路(河川、湖、湾)の状態が海に影響を及ぼし、ひいては人類全体に影響を及ぼすということを忘れては なりません。
 リーフリソース
プロジェクトAWAREのサンゴ礁保護キャンペーンは、サンゴ礁の生態系を保護することの深刻な必要性について一般の人々を教育する啓蒙活動であり、生態 系にダメージを及ぼしている様々な問題に対する日常的な対策に関して人々が行動を起こし、積極的に参加するのに必要な情報を提供しています。サンゴ礁につ いて学び、どうすれば保護できるかについての情報は、www.projectaware.orgを ご覧ください。その他、サンゴ礁の保護に関わっている団体を下記に紹介します。各サイトでサンゴ礁に関する最新情報やデータを見ることができます。

Reef Check www.reefcheck.org
Rescue the Reef www.rescuethereef.org
The Coral Reef Alliance www.coral.org
International Coral Reef Network(ICRAN) www.icran.org
Ocean Futures Society www.oceanfutures.org
Reef Relief www.reefrelief.org

 マクギリヴレイ・フリーマン・フィルムズ
世界のサンゴ礁について知りたい方には、マクギリヴレイ・フリーマン・フィルムズの新作IMAX映画「コーラル・リーフ・アドベンチャー」をお勧めしま す。最寄りの上映館に着いてはwww.coralfilm.comを ご覧ください。

サンゴの 白化
次のダイビングまで500年待つ?

アレックス・F・ブライルスキ
プロジェクトAWARE財団  海洋保護教育スペシャリスト

サンゴ礁は気候の変化に非常に敏感です。温度という点 では、あらゆるエコシステムの中で最も敏感なものの一つに数えられます。

 さらに、サンゴ礁は気候の変化の指標としての役割も果たすため、空気が汚れていない かど うか判断するために炭鉱内でカナリヤを飼っていたという昔の習慣になぞらえて、生物圏にとっての“炭鉱のカナリヤ”としばしば呼ばれます。炭鉱夫たちは気 絶したカナリヤを見て、内部の空気が安全でないことを知ったのでした。そして、私たち人類が、賢い人を意味するホモサピエンスという学名に恥じない行動を するのであれば、私たちはサンゴ礁の小さな生き物たちの声に耳を傾けるべきです。
 
 サンゴ礁を研究している学者は、一般に共生藻と呼ばれる渦鞭毛虫が体内に共生している種類のサンゴに見られる、全般的なストレス反応の現象を表 現するのに、“白化”という用語を造り出しました。渦鞭毛虫はサンゴの組織の中に共生する単細胞の藻類で、光合成を行って宿主に栄養分を供給します。白化 というのは、これらの共生藻が抜け出てしまうか、共生藻は抜け出ないが光合成の色素が失われてしまう現象のことを言います。いずれの場合も、色の発生源が なくなってしまう、あるいは大幅に少なくなってしまうため、サンゴは白く見えるようになります。白化したサンゴでは、薄くて透明なポリープの皮膚から内側 の白い石灰質部分がはっきりと見えます。これがほんの短期間(数週間)の現象であれば、サンゴのコロニーは回復する可能性があります。しかし、ストレスが 大きすぎる、あるいは栄養分を供給してくれる共生藻がいない期間が長すぎると、サンゴは死んでしまいます。
 
 白化は様々な原因によって生じますが、すべてストレスに関係しています。ストレスを引き起こす要因としては、汚染、空気にさらされること、異常 低温などがあります。概して、これらは局地的な現象です。しかし最近では、夏場の海水面温度が通常より高いことに関連したサンゴの白化現象が世界規模で発 生していることから、広く知られるようになりました。大規模な白化現象は、サンゴ礁が人間に対して発している地球の温暖化に対する重大な警告サインではな いかと多くの人が考えています。
 
 サンゴ礁地域では、通常、水温の変動幅は年間わずか約4℃です。でも、世界規模で見てみると、サンゴ礁は16℃から36℃というかなり広い温度 範囲に対して耐性があります。では、そのような狭い温度変動幅が、それほどまでに劇的な影響を及ぼすのはなぜでしょうか?特定の地域に生息するサンゴは、 その地域の狭い温度変動に適応しているというのが答ではないかと思われます。通常の最高気温より1℃か2℃高い状態が数週間続いただけで、広範囲の白化が 引き起こされることが、研究ではっきりと示されています。

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記録

 1979年以来6回目の1998年に発生した大規模なサンゴの白化は、記録されている中で最も被害が激しかったもので、初めて熱帯地 方のすべて のサンゴ礁地域が影響を受けました。太平洋、インド洋、紅海、ペルシャ湾、地中海、カリブ海など世界各地から、白化した珊瑚に関する報告が続々と発表され ました。信じられないことに、ほんの9ヶ月という短い期間に、世界のサンゴ礁の約16%が破壊されてしまいました。その広大な面積の一部はゆっくりと回復 するだろうと見る専門家もいますが、たぶん、その半分は永久に失われてしまったのではないかと思われます(世界のサンゴ礁の11%が、1997年より以前 に死んでしまっています)。最も大きな被害を受けたのは、アラビア/ペルシャ湾、ケニヤ、タンザニア、セーシェル、モルディブ、チャゴス諸島、スリラン カ、インド、ベトナム、フィリピン、台湾、日本南部、パラオのサンゴ礁でした。多くの地域から、水深30メートルの深さに及んで広範囲で60〜90%のサ ンゴが失われたという報告がありました。
 
 さらに、1997年から98年にかけて起きた白化現象は、史上最大と言われたエルニーニョにも関連していました(エルニーニョに関しては下欄を ご覧ください)。事実、1997年から98年にかけて起きた白化現象は、過去700年間で最も激しい被害を各地にもたらし、過去150年の海水面温度の記 録を破るものだったという証拠があります。白化は無差別の被害をもたらします。
 
 オーストラリアのグローバル・コーラル・リーフ・モニタリング・ネットワークのクリーヴ・ウィルキンソン博士によると、白化の結果は悲惨です。 『2000年度世界のサンゴ礁現状報告』の中で、ウィルキンソン博士は次のように述べています。「サンゴ礁は回復するか、あるいは固有種も含めて各地で多 くの種が失われることになるのか、はっきりとした見通しが立つまで数年はかかる。サンゴ礁の回復は、1997年から98年にかけて発生したような極端な事 象が繰り返されないことにかかっていると言えるが、それでも、サンゴ礁が白化前の状態に戻るまでには、20年から50年はかかる。」
 
 サンゴの白化は単なる自然現象で、気候の変化の徴候と間違って解釈されているだけなのでしょうか?サンゴの白化は新しい現象なのでしょうか?そ れとも、1979年以前は単に見過ごされていただけなのでしょうか?白化現象が起きる頻度は、これから増えるのでしょうか、それとも減るのでしょうか?こ の他にも、私たちが考えていかなければならない問題はたくさんあります。サンゴの白化の分野で世界的に有名な専門家の一人であるオヴ・ホーフ・ガルドバー グ博士は、世界野生生物基金に提出した報告書の中で、白化に関して次のような意見を述べています。「サンゴの白化に関する最新研究によると、サンゴは最近 生じた温暖化のスピードについていけず、二酸化炭素放出による温室効果の最大の犠牲者になるであろうことが示唆されている。長期的に見て、サンゴ礁が絶滅 することはないが、温暖化を軽減しない限り、少なくとも500年間はサンゴの健康と分布が激しく損なわれるであろう。
 もう一度健康なサンゴ礁を見るのに西暦2503年まで待たなければならないとしたら、それはひどく悲惨な世界です。でも、それはあり得ないことではない のです。

エルニーニョとは?
 簡単に言うと、エルニーニョとはヨーロッパと同じくらいの面積の暖かい海水が細長く伸びている現象のことで、2年から7年ごとにペルー沖に現れま す。お風呂の温度くらいに高くなる海水域は、ほとんどの場合、西向きに吹く貿易風によって押されてオーストラリア近くの西太平洋に留まっています。しか し、時おりこの貿易風が弱まり、場合によっては反対の方向へ吹くこともあります。通常、東から西へ向かって吹く貿易風が南米大陸の沿岸から海水を西へ向 かって押すため、ペルー沖の海水面はインドネシアより数10センチほど低くなっています。エルニーニョの間、インドネシア周辺に吹き寄せられた海水は、太 平洋を越えて南米の沿岸に移動します。海水中に閉じ込められた熱のエネルギーを秘めて凶暴になったエルニーニョは、世界中の気候を混乱させるほどの力を 持っています。


今 またオニヒトデの異常発生、サンゴ礁を食い尽くす
アレックス・F・ブライルスキ Ph.D 
プロジェクトAWARE財団、海洋保護スペシャリスト

少なくともここ40年間、多分それ以前からインド・太平洋のサン ゴ礁は常に難問に直面してきました。その犯人はいつでもサンゴ礁の隠者、オニヒトデ(英名:clown-thorh-starfish(COTS)、学 名:acanthaster-planci)でした。

 今回の爆発的な増加は異常発生とも言われます が、この貪欲なサンゴイーターの大発生は、多くの地域、特にオーストラリアのグレート・バリア・リーフで多くの被害をもたらしています。この無脊椎動物に よるサンゴ食害の最も異常な傾向は、この大発生が一定の周期で起きていることでしょう。最近では、2001年にケアンズの近くのサンゴ礁で起きたときに は、オーストラリアの観光機関はその駆除のために230万オーストラリア・ドルの費用を要しています。しかしながらオニヒトデの異常繁殖は、関係各国やオ ニヒトデを研究している科学者の間では、以前からある問題で、近年ますます大きくなって来たものです。事実、これからお話しするこの不気味で今も未解決の オニヒトデ怪談は、『What Is Natural? Coral  Reef Crisis(科学史研究家のJan Sapp著1999年)』によるものです。オニヒトデ(COTS)については今も多くの不明点が残ったままですが、研究によってオニヒトデの生物学的な知 識、異常発生現象の特性、被害にあったサンゴ礁の再生のパターンなどについての理解が深まってきています。

COTS101
 COTS(オニヒトデ)の実物はもちろんのこと、写真ですら見たことのない人には、COTSのその異様な姿は、ホラー映画から飛び出してきたとしか思え ないかもしれません。
 オニヒトデは大きく(少なくともヒトデとしては)直径81センチ以上にも育つ場合もあります。よく砂浜で見かける普通の5本の腕のヒ トデとは違い、COTSは21本の腕をもっています。オニヒトデは夜行性で、この21本の腕は長くて鋭く、毒をもったトゲでびっしりと覆われています。
 COTSの繁殖期は12〜4月、オーストラリアの夏から初秋にかけての季節です。水温が28℃前後になったときに、他の水中生物と同じように、オニヒト デ は精子と卵子を水中に放出します。オニヒトデのメス1匹が、1産卵期に生み出す卵子は2億5000万個にも達します。まずこれが爆発的な異常繁殖の可能性 につながります。
 受精卵は幼生となって2〜4週間を潮流の中で過ごしますが、中には魚の餌になるものもいます。この時期を幸運に生き延びた幼生は、1〜2 ミリほどの子供になり、サンゴ礁に定着をして生活を始めます。この間、岩陰やサンゴの陰で過ごすため、他生物の目に触れることはまずありません。この幼年 期、オニヒトデは藻類を食べています。そして1年を過ぎると生きたサンゴを餌とするようになります。2年経つとCOTSは直径25センチほどにまで成長し ます。
 サンゴ礁での通常の繁殖密度は1ヘクタール(100x100メートル)当たり12匹程度です。このような繁殖密度では、夜行性で昼間はサンゴの陰に 隠れていて、ほとんど他の生物の目に触れることはないのです。そのさほど高くない通常の繁殖密度からして、大発生が起きるまでは、COTSがサンゴにどの 程度の被害を与えているかはっきりしていません。そのはっきりしない理由はオニヒトデが選んで食べるサンゴに好みがあるからだといわれています。
 COTS はテーブル・サンゴと枝サンゴを好んで食べます。だからといって、そのサンゴの郡体すべてを食い尽くすことはしないのです。オニヒトデによるサンゴの食害 も、ある一定レベルであれば、サンゴ礁には復活の可能性があるということです。事実、野火が新しい草木を育てるように、ある一定のサンゴ食害は、サンゴ礁 のリサイクルや生物相の多様性を保つ働きをしてくれます。ところがサンゴを食べる口がそれ以上増えると問題が起きます。個体数が増えるとエサを競って食べ るようになり、さらに食べるエサの好みがなくなって、どんなサンゴも食べるようになります。しかも、夜でも昼でもサンゴを食べるようになります。  いっ たん 異常繁殖すると、繁殖密度も1平方メートル当たり数匹と異常な数になります。このような個体数の異常な増加は珍しいことではなく、一度この異常繁殖が起き ると、数日のうちに生きたサンゴ礁のほとんどを食い尽くしてしまいます。
 グレート・バリア・リーフでの調査結果によると、サンゴ礁を覆っているサンゴの普 段のレベルの25〜40あるいは41%ぐらいまで、オニヒトデはサンゴを消滅させたことがわかっています。このレベルまでサンゴ礁が破壊されると、回復す るには10年、あるいはそれ以上かかると考えられます。この説明で、観光関係者やサンゴ礁の管理者がCOTSにより大きな脅威を感じていることを疑う人は いないでしょう。

異常発生の根拠
 グレート・バリア・リーフでのオニヒトデの大発生は、 過去3000〜7000年の間、毎年起きていたという見方もあります。この見方は、大昔のサンゴく ず(泥)の中に、COTSの骨格の一部である、針状骨が見られることが根拠になっています。しかしこの見解に対して、サンゴのくず(泥)にはいろいろの年 代のものが混じっていて、正確な年代を特定することが難しく、このような証拠で結論にはならないという異論を唱える研究者もいます。現代におけるCOTS の大発生の記録は、1962年のケアンズの沖にあるグリーン・アイランドでの大発生です。しかしながら、それ以前にも大発生はごく当たり前に起きていた と、多くの人が考えています。この人たちは、スクーバ・ダイビングが広まったために、この40年ほどの間、大発生がたまたま目につくようになったと考えて います。研究から、この異常繁殖現象のメカニズムを説明する理論は互いに関連するのでしょうが、3つに分かれています。ただし、どの理論も立証された訳で もなければ、否定された訳でもありません。 それぞれの理論は以下の通りです。

1) COTS(オニヒトデ)の個体数の変動は自然のことである。
2) COTSの天敵(捕食動物)を獲るとCOTSが増える。
3) 人口の増加に伴って栄養物が海に排出され、COTSの幼生の 生き延びるチャンスが大幅に増した。では、それぞれの理論を見ていくことにしましょう。


自然の成り行き説
 ほかの無脊椎生物と違ってCOTSは生きている間に、 10億近くの卵を産むことが出来ます。このことはある環境条件の変化が、その生存率に大きな影響を 与えることを意味しています。例えば、1億の幼生から1個体が生き延びる場合から1000万個に1個体が生き延びるように生存率が変化すると、1世代の個 体数でも10倍に増えます。環境の変化要因には、水温、塩分濃度、エサの獲りやすさ、そしてそのいずれもが幼生の生存率を大幅に高めてしまいます。
 最近で はこのCOTSの異常発生がエルニーニョ現象と何らかの関連性があるのではないかといわれています。北アメリカでは、このエルニーニョが熱帯太平洋周辺で の大きな気候変動を引き起こしています。ドミノ倒しのように、COTSの成体個体数の増加が起きるだけでも、膨大な数の産卵が起きることになり、次世代の 幼生の生存率を大幅に高めることになります。科学のあらゆる分野で数学的モデルが使用されているように、COTSの個体数をコントロールするための幼生の 被捕食率が数学的に試算されています。ところが、最近の研究ではCOTSの幼生や未成体の被捕食率は、推定した率よりも低いことがわかってきました。そこ でさらなる研究が続けられています。


人為的な要因
 研究者の中には、世界的に見て、雨期とCOTSの異常 発生との間には何らかの関係があると考えている人もいます。この考え方は降雨が大量の泥とともに栄 養物を海に流入させることになり、オニヒトデの幼生の食料減である微小な藻類を増加させます。その結果、幼生の生存率が普通の条件下に比べて高率になりま す。さらに他の研究者は、大量の真水の流入による塩分の低下が COTSの幼生の生存率を高めるという説を提唱しています。この説は、ヨーロッパからの移住が始まって以来の社会活動の増大、そして人口の増加によって、 栄養分が著しく増大していることを考えると、少なくともグレート・バリア・リーフでは、ある程度の信憑性があります。もうひとつの説は、大発生はもともと 自然なことなのですが、栄養分の蓄積が大発生の頻度と集中度に影響を与えるというものです。
捕食動物(天敵)がいない と… もともとタフであること、しかも有毒の皮膚と長いトゲをもつ成体 のCOTSにはほとんど捕食者(天敵)がいません。いくつかの説では、オニヒトデの捕食 者が個体数の爆発的増加をコントロールするカギを担っているとしています。この説はよく知られたオニヒトデの捕食動物(天敵)であるジャイアント・トリト ン(ホラ貝の1種)に、人々の目を集めさせることになりました。
 この説は、1969年に少なくともオーストラリアで保護が始まるまでは、シェルのコレク ターによって大量に獲られていたので(異常繁殖が起きるようになっても、保護指定がされていない地域では大量に捕獲されています)、理論的に説得力があり ます。ところが最近の研究では、このホラ貝は1週間に1匹のCOTSしか食べれないこと、異常発生をコントロールするには、はるかにその数が足りないこと が結論ずけられています。


異常発生をコントロールする
 COTSの異常発生が最初に記録されたこともあって、 COTSのコントロールについての研究の多くは、グレート・バリア・リーフとその管理機関、グレー ト・バリア・リーフ海洋公園局(GBRMPA)によるものです。これらの研究からCOTSの異常発生そのものを防ぐことはできないものの、多くの人為的な 努力を重ねれば、地域的には異常発生による被害からサンゴを守ることができます。
 オーストラリアでは、硫酸ソーダ溶液あるいはその他の化学薬品を、トレー ニングを受けたダイバーがヒトデに注射しています。オニヒトデは数日のうちに死にますが、これだけではすぐに新たに管理地域に入ってくる個体を止めること はできません。このCOTSの素早い移動性は、個体数の日常的な管理を要求します。その結果、COTSの個体数の管理は、経費面でも、労力の面でも、ひど く手間のかかる事業になります。
 例えば、ケアンズ沖の硫酸ソーダの注射などによるオニヒトデの駆除は、1日200〜500匹を駆除するだけでも、観光関係 者は年間30万オーストラリア・ドルを費やしています。しかもこのやり方は、あるごく限られた地域、例えば商業的あるいは観光価値が非常に高いといった地 域に限って実用的です(水中で殺すだけでは、オニヒトデの個体数管理になりません。それぞれの身体の部分が再生して、より多くの個体になります)。
 観光に 与える影響はともかく、この問題をさらに面倒なものにしているのは、このCOTSもまたインド洋/太平洋の一部だということです。もしその異常発生が自然 の営みの一環であるとすると、母なる自然を無視して、COTSの大発生を管理しようとする試みは、長期的に見て生態系にどんな結果をもたらすのでしょう か。科学のあらゆる分野と同様に、このような問題に対して、まだ私たちは答えをもっていないのです。この針坊主のような海のお化けの謎も、COTSの生息 する環境についての理解が進んで初めて明らかになるでしょう。
 研究者たち、特にグレート・バリア・リーフ周辺の研究者はその答えを求めて研究を続けていま す。陸からの真水の流入と大発生の関連性、より利益効率のよい管理方法、長期的管理のサンゴ礁の生態系への影響などを含めて、様々な研究が続られていま す。現在私たちが知り得たこともたくさんあります。さらにCOTSについて勉強したい人は、Australian Institute of Marine Science(オーストラリア海洋科学研究所)のホームページ、
http://www.aims.gov.au/web/guest/search?q=Cod にアクセスしてみてください。


サンゴ礁は医薬品の宝庫
アンドリュー・W・ブラックナー
サンゴ礁生態学者、海洋大気庁(NOAA)/海洋漁業局(NIMFS)

サンゴ礁は医薬品として役立つ可能性を秘めた遺伝物質の宝庫

 過去10年間に、公衆衛生、疾病、海産物の安 全性、新しい素材やプロセスの開発、海洋生態系の再生や改善などの分野で海洋バイオテクノロジーが応用されてきました。藻類から作ったガンの治療薬やイモ ガイの毒から作った鎮痛剤など、海洋生物から各種の物質が開発されています。抗ウィルス薬Ara-AやAZT、抗ガン剤のAra -Cは、カリブ海に生息するカイメンのエキスから開発されたもので、サンゴ礁から開発された医薬品としては最も初期のものに数えられます。その他、インド 洋に生息するアメフラシから分離されたドロスタチン10など様々な物質が、乳ガン、肝臓ガン、腫瘍、白血病などの治療薬として現在臨床実験されています。 まさに、サンゴ礁は医薬品、栄養補助食品、酵素、農薬、化粧品など商品として多大の可能性を秘めた天然物質の宝庫であり、その大部分がまだ未開発です。し かし、救命や寿命を延ばすのに役立つ物質の宝庫としてのサンゴ礁の重要性を、一般の人々や政策立案者はまだ十分に理解していません。サンゴ礁を衰退や乱開 発から守るための取り組みを強化し、持続可能な形で管理することが緊急の課題です。

 1980年代から90年代にかけて開発された多くの抗ガン剤や抗感染剤を含めて、現在利用されている薬の40〜50%が天然物質から作られたものです。 これらの物質の多くが陸上の動植物や微生物から由来するものですが、海洋バイオテクノロジーも急速に進展しています。地球上の生命形態の80%が海にしか 存在していません。サンゴ礁の生き物が持つ独特の薬効的特性は、すでに14世紀頃には東洋文化圏で認識されており、今でも昔からの伝統的医薬として広く利 用されている種もあります。中国、日本、台湾では、タツノオトシゴのエキスから作った強壮剤や医薬品が、性障害、呼吸器系や循環器系の病気、肝臓の疾病、 喉の感染症、皮膚病、疼痛など様々な病気の治療に使われています。近代的な方法や技術を使う科学者も、最近は新しい商品開発を目指して、野生の海洋生物か ら役に立つ化合物や遺伝物質を探す研究を重視しています。しかし最近まで、遠隔地や深い海にあるサンゴ礁に行き、そこに生息している生物から海洋バイオテ クノロジー製品を商業開発するのに必要な技術は十分に確立されていませんでした。
 海洋生物、特にサンゴ礁に生息する種から新しい薬を発見する確率は、陸上の生態系から発見する確率の300倍から 400倍と言われています。陸上の生物も 広範な種の多様性を示しますが、海洋生物のほうが系統発生的な多様性がはるかに大きいことがわかっています。サンゴ礁には陸上の無柄植物や菌類に似たもの が生息していますが、サンゴ、被襄類(ホヤなど)、軟体動物、コケムシ、カイメン動物、棘皮動物など、陸上の生態系には見られない様々な無脊椎動物が集 まっています。これらの動物は一生の大半をサンゴ礁に付着して過ごし、環境の変化や捕食者などの危険から逃げることができません。多くがいわば一種の科学 戦争で身を守っており、生体に作用する化合物を使って捕食者を撃退し、病気を防ぎ、他の生き物と競争して異常繁殖を防いでいます。毒素を使って補食する生 き物もいます。こういった化合物は、生き物自身が合成しているものもあれば、その生き物の体内に生息する内部共生微生物が合成しているものもあり、また、 餌として食べる物から得ている場合もあります。独特な構造や特性を持っているため、医薬品や農薬の原料として役立つ可能性を秘めています。

 こういった様々な可能性があるのにも関わらず、米国をはじめとする各国は、ようやく海洋バイオテクノロジーに投資を開始したところです。ここ10年ほど は、日本がこの分野で世界をリードしており、毎年9〜10億ドルを研究につぎ込み、その約80%が企業からの投資です。米国政府が1992年に海洋バイオ テクノロジー研究に投資した額はわずか4400万ドルで、バイオテクノロジー分野における総研究開発予算の1%足らずであり、企業が投資した額は2500 万ドルでした。最新のデータはその4年後の1996年のもので、米国政府が海洋バイオテクノロジー研究に投資した額は少し増えたものの、5500万ドルで した。それでも、米国では1983年以降、海洋バイオテクノロジーへの取り組みの結果として170以上の特許が生まれ、100種類ちかくの新しい物質が 1996年から1999年の間に特許化されています。海 洋バイオテクノロジー研究に対する米国政府の資金援助は、今後増えることが予想されます。海洋大気庁(NOAA)によると、海 洋バイオテクノロジーは世界規模の巨大産業になり、今後5年間で年15%〜20%の成長が見込まれています。

 新種のバイオ物質の収集、分類、分析、開発には専用の装置や技術が要求されることから、サンゴ礁に生息する種が持つ医学的可能性の研究に対しては、米国 を始めとする先進国による取り組みが緊急に必要とされています。海洋生物の標本を採取して同定するには、技術的な難しさだけでなく費用もかかり、生物に作 用する化合物を効率的に取り出すには、最新のスクーリング技術が必要とされます。また、臨床開発や商業生産に適した安定的供給源としての生物を同定するの も難しい課題です。こういったことが障害となって、海洋バイオプロスペクティング活動(地球上に存在する膨大な生物資源から特定の目的のために有用な遺伝 資源を発掘して役立てるための研究活動)が制限されているという現状があります。
 天然物質を同定して抽出するには、大規模な調査と収集が必要になります。これまで、サンゴ礁から無脊椎動物をラン ダムかつ大量に採集するという方法がとられていましたが、どのぐらいの量の生物を採取したかのデータが提示されることはめったになかったため、採集に伴う 影響を分析するのは困難でした。研究者は有用な化合物を突き止めるために、同じ種を何百キロも集めて均一化しました。この手法から数種の化合物は算出され たものの、それぞれきわめて微量であり、求める化合物を同定するのに必要な各種の分析を行うには不十分でした。例えば、米国のある研究グループは、黒色腫 の治療に使う化合物を作るのに1600キロものアメフラシを採集しましたが、分離できたのはわずか10ミリグラムだったと報告しています。また、わずか1 ミリグラムの抗ガン剤を作るのに、インド太平洋に生息するカイメンを2400キロも採集したという研究も報告されています。製薬開発には、生物に作用する 代謝産物が1キロは必要だとされています。

 一方、有望な化合物に狙いを定めるのは、ほんの最初のステップにすぎません。新薬の開発を可能にするには、再生可能な供給源を確保しなければなりませ ん。有望とされる種の多くが、生物量が微量で、限られた場所にしか分布していません。また、同じ化合物でも、特定の環境的条件にさらされるか、刺激を受け た種にしか存在しないという場合もあります。有望な化合物は希少種や成長が遅い種に由来する場合が多く、採取できる量もきわめて微量であるため、特定の種 を新薬の安定生産に必要な量だけ集めるというのは非現実的だと言えます。

持続可能な管理
 サンゴ礁の生物多様性は膨大で、解明されているのは、そのうちのわずか10%以下と見積もられており、生医学化合物の供給源として研究されているのは、 さらにそのうちのほんの一部にすぎません。わかっている範囲の生物に関しても、持続可能な管理に役立つ知識はまだ不十分です。残念なことに、世界各地で人 々の暮らしはサンゴ礁の資源に大きく依存しており、その結果、特に人口が密集している地域に近いサンゴ礁の多くが乱開発され衰退しています。経済難や環境 問題が切迫し、人口も増え続けていることから、貴重な資源の管理が困難な現状になっています。

 急速に減少している資源の一例がタツノオトシゴです。漢方薬に使用されるタツノオトシゴの需要は1980年代に10倍になり、売買は年8〜10%の率で 伸び続けています。タツノオトシゴの年間消費量は、アジアだけでおよそ50トンと見積もられ、これは30カ国から供給される約2000万匹に相当する量で あり、採集によって数が急速に減少しています。プロジェクト・シーホースが実施した調査によると、タツノオトシゴの数は1990年から1995年の間に世 界中で50%近くも減少してしまいました。サンゴ礁とその資源に対する有効管理が確立されていない現状において、製薬など人類に役立つ生化学物質の供給源 として有望な種の多くが、科学者による調査を実施する機会すらないまま失われてしまう恐れがあります。

*「サンゴ礁は医薬品の宝庫(原題Life-Saving Products from Coral Leefs)」は、『Issues in Science and Technology』誌2002年春号(pp. 39-44, Copyright 2002 by the University of Texas at Dallas, Richardson, Texas, USA)に発表されたものを、許可を得て転載しています。
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世界のサ ンゴ礁の状態に関する詳細レポート

 地球規模サンゴ礁モニタリング・ネットワーク(Global Coral Reef Monitoring Network、GCRMN)とオーストラリ ア海洋科学研究所(Australian Institute of Marine Science、AIMS)は先頃、世界17地域100カ国以上のサンゴ礁の状態に関する詳細情報を記 載したレポートを発表しました。
 
 このレポートは『世界のサンゴ礁の状態:2002年(Statusof Coral Reefs of the World: 2002)』 と題され、深刻な問題点と朗報の両方を織り交ぜた内容になっており、地域や国や国際的な政策がこの問題を最前線において検討していけば、人類全体がサンゴ 礁の衰退を食い止める方向へ向かい、危機は峠を越すだろうという力強い証拠も報告されています。1998年と2000年に発表されたレポートは、サンゴ礁 の貴重な資源が衰退している現状や、サンゴ礁に全面的あるいは部分的に依存して生計を立てているおよそ5億人の人を助けるために何らかの対策を取る必要性 があることに対し、各方面の国家機関や国際組織の意識を向けさせることに特に多大な役割を果たしました。

朗報
 レポートによると、サンゴ礁を保護する必要性に対する一般の認識が高まってきており、世界的、国家的、そして地域的レベルで様々な保全活動に結び付いて いる兆しが見られます。
 
 世界的に見ると、サンゴ礁問題の多くが必ずしも特定の地域だけに限定されたものではないという認識が高まってきています。政府機関と非政府組織との間で 様々な協力関係が生まれています。GCRMNを主要な活動のひとつとしている国際サンゴ礁イニシアティブ(International Coral Reef Initiative、ICRI)は、 各国に働きかけて国内資源に目を向けさせる活動を行っています。多くの地域社会が国際的な支援を受けて、サンゴ礁に対するダメージを食い止めて改善する取 り組みを始めています。今回のレポートで明らかにされた点のひとつが、サンゴ礁の資源管理の必要性を説き、適切な情報を与えさえすれば、地域社会は概して 自分たちの資源を管理することにやぶさかではないという点です。これは教育と情報配布の重要性を示しています。しかしながら、情報を広めるには、まず収集 して整理しなければなりません。
 
 GCRMNの中心的な情報源であるReefBaseは、 世界のサンゴ 礁分布、状態、問題などに関するデータを集めた情報データベースで、サンゴ礁に関する情報を各方面に配布するのに重要な役割を果たしています。

問題点
 人間の活動がサンゴ礁の衰退の大半を引き起こしているという報告が全地域から寄せられており、汚泥の沈殿、汚染、ずさんな開発などがサンゴ礁の 未来に深刻な問題を投げかけているとされています。レポートで説明されているように、1997年から98年にかけて発生したサンゴの白化現象により、世界 のサンゴ礁のおよそ16%が破壊されました。レポートのデータによると、ストレスをあまり受けていないサンゴ礁は回復に向かっていますが、沈殿物や栄養負 荷が大きいサンゴ礁の場合は、回復が進んでいません。言い換えると、人間が引き起こしたストレスが原因で、サンゴは通常なら十分に克服できるであろう状態 から回復する能力を失ってしまっているのです。また、さらなる地球温暖化によって引き起こされる可能性がある別のエルニーニョ現象により、サンゴの回復が 完全に止まってしまう恐れも指摘されています。
 
 加えて、サンゴの病気や伝染病が世界各地、特にカリブ海全域で問題になっています。データによると、サンゴの病気は明らかに広がりつつあり、 2002年初頭にはカリブ海以外の場所でも突発的な大発生が見られました。2004年のレポートには、サンゴの病気と伝染病が人間の活動に関連したものか どうかについて、さらに詳しい情報が記載される予定です。

次は?
 未来が不確実になっている中で、サンゴ礁の保全に全力を挙げて取り組むことの必要性は、以前にも増して重要なことになってきています。プロジェ クトAWARE財団のサンゴ礁保護キャンペーンは、積極的に参加するためのひとつの手段になります。ぜひ行動を起こし、世界を変える力になってください。 詳しくはwww.livingreef.orgを ご覧ください。ま た、『世界のサンゴ礁の状態:2002年(Status of Coral Reefs of the World: 2002)』はwww.gcrmn.orgで ダウンロードできます。


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