沖縄環境ネットワーク通信33号 2006年5月25日発行に掲載

「石垣島より〜 リゾート開発と新しい形の住民運 動つぶし」
米原リゾート開発反対住民の会

 新空港開設のための予算もつき、開発ラッシュが続く石垣島。ほんの数年前までは島の南側は街としての機能を持ち、北側は美しい自然と景観が保たれていま した。
 島全体としてみれば、島民の活動と自然が住み分け、共生という点でバランスが取れていたと言ってよいと思います。
 しかしその北部にも住宅建設が進み、そして今度はリゾート建設という開発の波が押し寄せようとしています。現在、石垣市に提出されているリゾート開発の 計画は6箇所以上といわれ、すでに開発許可が出されているものもあります。そして3月の市長選で4選を果たした大浜長照市長は選挙後、「ゴ ルフ場は2箇所は必要」と言い出すまでになってしまいました。今後、石垣島の自然はどうなってしまうのでしょう?

 島北部の「米原(よねはら)地区」でリゾート開発の先鞭をつけようとしているのは、大手住宅メーカーの「大和ハウス工業」と地元企業の「興(おき)ハウ ジ ング」のジョイントベンチャー。場所は環境省選定の『日本の重要湿地』に数えられ、また天然記念物の八重山ヤシ自生地があり、石垣島でもここにしか生息し ないイシガキニイニイ(注1)のいる米原です。その海はサンゴ礁など生物の多様性が高く、観光 で訪れる方、中でもリピーターにとても人気のあるところです。
しかし、「自然との共生」「ネイチャースピリット」「共創共生」等、すばらしいコンセプトを掲げながら、これまでに大和ハウスが米原リゾート開発にあたっ て行ってきた事を見ると、その言葉は欺瞞に満ちていると言わざるを得ません。

 事の始まりは昨年6月、人口100人余りの静かで美しいこの集落に、13階建て660名収容(高さ45メートル)、開発面積7万5千m2の、沖縄離島最 大規模の大型リゾートホテル建設を10月に着工するという大 和ハウスの発表でした(現 在は5階建て4棟、8万2千m2に変更)。
 この発表に対して、すぐに集落住民の過半数を超える反対の署名が集まりました。これに対して大和ハウスは「地域の方の反対があれば無理 に開発はできな い」 と言いつつも、「開発を進めるにあたりボタンの掛け違いがあり説明させて欲しい。ついては市に提出した反対の署名を取り下げて欲しい」という申し出をして きました。

 「青葉農園」について触れたいと思います。リゾート計画用地の40%余りを占める農地は、この農業生産法人が取得したもの。農業生産法人が農 地を取得できるのは農業を行うためではないのでしょうか? その農地が宅地に転用され開発されていく図式が予想されるのです。しかもこの農業生産法人の実 態には不審な点が多いのです。役員履歴には大和ハウスと共に開発を進める興ハウジングの社長の名前、関連会社の役員の名前が並び、所在地も同社と同じで す。
 これに対して県および市は、同法人には農業実態が無い事から農地の転用に難色を示しながらも、同法人が他にも広大な 農地を所有しており、そこでの農業実 態が認められれば米原での農地転用を認めようという取り決めが行われたと聞きます。そこで実際に農業が出来る人を、ということで米原の公民館長の叔父が 代表取締役に就任したというのが表向きの理由のようです。
 でもおかしいと思いませんか? それまでこの農業生産法人には農業が出来る人がいなかったのでしょうか。他にもこの法人の役員履歴を見れば、県議や市長 の親族がいることが分ります。このような農業生産法人に対し、例えそれが土地転がしのためのペーパーカンパニーだったとしても、役所は強く指導にあたれな いのかもしれません。

 話は多少前後しますが、以前、米原に「ここに大型リゾート?」「海は大丈夫?」「島人の宝ってなに?」等と可愛いイラストと共に書かれた看板が立てられた ことがありました。米原地区外の有志の方が立てたものです。しかしそれは一晩で何者かに盗まれてしまいました。開発を望む者にとって「この問題について 考えられること自体ジャマ」というもう一つの象徴的な出来事でしょう。

 このような中で米原は年を越したのですが、それまでの石垣市の対応について少し書きたいと思います。
 この件に関する市の担当部署は「都市建 築部都市計画課」です。同課は当初から45メートルという高層の計画に難色を示し、昨年の11月に市の主催で行わ れた景観法についての学習会(2005 年11月27日八重山毎日)でも「13メートル以下にするよう指導してある」と述べています。
 この13メートルという数字なのですが、これは石垣市には景観形成条例景観整備計画というものがあり、その条例に基づいた数字です。その中で「海から 見た島・山並み、陸から見た海という相互に見る、見られる関係にある景観というものは大切であり、それが遮られるのは好ましくない」と、海岸線の防風林で あるモクマオウの平均的高さ13メートルを基準とし(これを超えるものを大規模建築物)、市は必要に応じて指導・誘導を行う事になっているのです。ただ、 この条例は自主条例というもので法的拘束力を持つものではありません。そこで市は、昨年施行された景観法に基づく法委任条例としての景観条例を作るべく、 現在取り組んでいる所です(2005年12月17日八重山毎日)。しかし、米原には間に合うのでしょうか?
 これが景観に対する取り組みで、もう一つ環境に対する配慮もありました。
「市は事前協議のなかで、両社に対して任意のアセスを行うよう要望した。両社はすでに任意のアセスを実施しており、市に報告書を提出することにしている」 (2005年6月14日八重山毎日) 「自主アセスとして専門業者に調査させている。9月いっぱいでは終わり、説明できると思う」(2005 年8月28日八重山毎日

 ところが、この調査の杜撰さが指摘された後、これは「環境調査」であってアセスメントではないと言い換えられています。この環境調査、現地での調査は たったの3日間。季節により移り変わる亜熱帯の豊かな自然をたったの3日間で、どれだけ分るのでしょう? また海浜 に接するリゾート用地にもかかわらず、海域調査は水質の調査のみ。陸生貝類に至っては調査時間30分! サンゴに関しては文献調査のみ。米原にいれば子供 でも知っているウミガメの産卵事実を「全く利用していないか、稀に利用」とし、陸生甲殻類には工事前には「自力移動を促す」などと書いてある。いったいど うやって? この海を知る者にとっては明らかにおかしな事ばかりです。
 そして最も杜撰なのが「海生生物」と題したサンゴの文献調査です。そもそも米原の海というのは「裾礁(注 3)で、種の多様性が高い」ということを理由に、環境省によって日本の重要湿地の一つに数えられているところです。それなのに。
以下、大和ハウスによる調査報告書から、問題と思われる箇所をいくつか引用してみます。

「サンゴ類被度が高い地域は、御願崎と川平から吉原、米原に至る 北西海域、及び平久保周辺である。米原のサンゴ類被度は10〜30%であり多種混生型となっている」
 本当でしょうか? サンゴ類被度が高い地域で10〜30%と言うのはおかしくありませんか?
この参考文献として挙げられている『石垣島周辺海域サンゴ礁学術調査報告書』には、このように書かれています。
「被覆度、生存度共に大きい健全なサンゴ礁が存在する地域は御願崎と川平から吉原、米原に至る北西海域、及び平久保半島の浦崎である。 〜中略〜 その意 味から過去および現在を通じて被覆度の大きい(80%以上)御願崎から米原までの北西海域と 〜中略〜 がもっとも期待されるサンゴ礁海域である」
 
 ふたつの報告書の数値がなぜこれほど違うのでしょうか?
 調べていくと、参考資料として挙げている別の文献の中に、大和ハウスの報告書にある数値は見つかりました。ただし、それはこのリゾート計画地から西に 離 れた調査ポイントのデータです。つまり大和ハウスの報告書は、現場とは違うポイントのデータを採用しているわけです。
 ではなぜ大和ハウスは、その違うポイントのデータを採用したのでしょう。これは現地に行かなければ分らないのですが、このポイントには地下水脈の流入が あり、塩分濃度が低くサンゴの生育に適さない場所なのです。そして大和ハウスにとって好都合な事に、リゾート予定地の西は米原キャンプ場と接しており、こ の調査ポイントは「米原キャンプ場」と名が付けられているのです。けれどこのポイントは米原キャンプ場の前にはなく、その西のはずれから更に西に行った ビーチの終わる所にあります。つまり米原キャンプ場前の海が調査ポイントだと誤解するので、リゾート計画地にとても近いと思わせる事が出来るという訳で す。
 更にもう一つ、大和ハウスが資料として引用しているものがあります。サンゴの死滅現象が起きた後の古いデータ(1989〜1992年調査)です。データ にはこれ以後に調査された最新版があり、そこではサンゴが回復し生存度が格段に高くなっているのに、です。
 大和ハウスの報告書は、このようにこれまでのデータを恣意的に継ぎ接ぎし、実に巧妙にサンゴ被覆度を低く見積もっているのです。これを私たちはデータの 歪曲と呼びました。

 報告書にはまた、このように書かれた部分もあります。
「礁縁部の造礁サンゴの被度は50%、生存度は20%であった」
 この引用も元の資料にはこう書かれています。
「造礁サンゴの被覆度は、リーフ内は50%、礁縁部から礁斜 面は 90%で平均70%。生存度はそれぞれ20%と60%」
 サンゴ礁は礁縁部が生存度・被覆度が高く、リーフの内側は低いのが当たり前です。それに照らし合わせてみれば、礁縁部にリーフ内の数値を当てはめてリー フ内の数値を書かないことで、リーフ内は更に珊瑚が少ない事を想像させ、一次資料にあるものとは全く違った海をイメージさせています。
 これを私たちはデータの改竄と呼び、大和ハウスに対して抗議をしました。するとまたしても大和ハウスは、「データの歪曲、改竄は事実無根」だと強 弁し 「風説の流布による名誉毀損である。謝罪し今後、歪曲、改竄という言葉を使うな」と、内容証明を送りつけてきました。これが『自然との共生』をコンセプト としてリゾート開発を進めようとする大和ハウスの真の姿なのです。

 最後にこの投書のタイトルにある、「新しい形の住民運動つぶし」について書きたいと思います。
それはインターネット上にある『石垣島米原地区ニュース』 という匿名のブログサイトです。「米原リゾート開発について中立の立場から発信」とあるのです が、内容をみればこのリゾート計画に反対をしている者たちがいかにも怪しい団体であり、共に反対活動をすれば大変なことになる。ましてや反対の署名などし たら個人情報が漏れ不利益をこうむる事になる、といわんばかりの内容です。
 また米原住民はこのリゾートに賛成しているのだからと事実に反することを書き、外部の人間が口を出さないように求めています。11月の代表者会議が流会 になったのも、少数の反対派がアルバイトのようなものを動員し、大和ハウスの社員が会場に入るのを拒んだためなどと述べています。マスコミによる新聞報道 があるにもかかわらず、です。
 ネットの世界ですから、それこそ一部の強硬な推進派の方が勝手にそんな事を書くこともあるだろうと相手にしていなかったのですが、「米原住民」の手で書 かれているもののはずなのに、大阪の大 和ハウス本社で行われた抗議会談の状況も、その場にいるか大和ハウスの社員でなければ知りえないことまで嘘を交えながら書かれていますし 、大和ハウスが内容証明を反対住民に送りつける前には、「おこなうはずです。」などと予告が行われているのです。大企業という 場所は、何処の誰ともわからない人間にそのような情報を事前に与える場所なのでしょうか?
 また、このブログには『米原の経済的自立と自然との共生をめざす会』なるものが存在し、米原でサンゴの調査を実施している事になっています。(今年3月 現在)。しかし人口100人余の米原集落なのに、どうして米原の人は誰がこの会をやっているのか知らないのでしょう? 確かに今、米原ではサンゴ調査か海 域測量が行われています。しかしそれを行っているのは大和ハウスと共にこの開発を進める興ハウジングと、大和ハウスの石垣島でのレジャー部門を請負うかも しれないダイビングショップです。
 つまりこの『石垣島米原地区ニュース』も『米原の経済的自立と自然との共生をめざす会』も、誰が主催しているのかはもとより、米原の住民が関わっている のかさえ確認できないのです。
 これらの状況から判断すれば、大和ハウスがこの情報発信に関与しているのは明らかだと思いますが、匿名で書かれているインターネットの世界のことなの で、大和ハウスが誰かに書かせているという明確な証拠はありません。
 ですが、もし私の想像するように、企業が開発を進めようとしている地域の住民を装い反対運動の信用を毀損し、この問題に係わる事に嫌気を生じさせ、人々 の関心を逸らす目的でこのような情報を発信しているのだとしたら、これはまた「新しい形の住民運動つぶし」と呼べるのではないでしょうか。

 大和ハウスは反対運動のあることについて、こうも述べています。
「反対している住民は2、3人だけで支援者には自然環境のためでなく、運動を生業としている人が複数、参加していることも調べてわかっている」(週刊金曜日3月17日号)。
 大和ハウスが数字に弱い事は環境調査報告書で分りましたが、そのような誤った事実を発表する前に米原住民の3分の2が反対の署名をしている事(2005年7月13日沖縄タイムス) 、石垣市内で1887人、その他全国から6156人(2006年4月11日現在)の反対署名が集まっている事実を重く受け止めてもらいたいものです。

編集部注
1 環境省の 「レッ ドデータブック」で絶 滅危惧種に指定されているセミ。
石垣島の固有種で裏石垣の米原周辺のみに分布が限られている。個体数は多くない。
2 「農振 法」(農業振興地域の整備に関する法律)に基づく農用区域内の農地を宅地等に利用する場合に義務 付けられた申請。除外要件を全て満たしている場 合に限り、農地から宅地等への転用が可能となる。
3 裾礁(きょしょう)  サンゴ礁のタイプのひとつで、島を取り巻くように海岸に接して発達し、浅い礁池をも つ ことが多い。日本のサンゴ礁は大部分がこのタイプ。「造礁サンゴ」は生物としての呼び名で、礁を形成すると「サンゴ礁」と地理用語になる。

※計画に反対している住民で作るサイト
SaveYonehara  米 原の森・海・サンゴ礁を守ろう http://www.save-yonehara.org/
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