緊急!島の未来シンポジウム 開発・移住ラッシュに意義続出

 基調報告  田島 信洋(実行委共同代表)

 地方の衰退が全国的に言われる昨今、日本最南端のこの石垣市で観光客や移住者が増え、異例とも言える状況の中でこのシンポジウムは開催される。神様の配 列というべき島の地理的条件、豊かな自然と美しい景観、そこではぐくまれた伝統文化に感謝しつつ、いかにこの島の宝を守り、育て、未来へ引き継ぐのか、こ のシンポジウムはそれを率直かつ建設的に話し合う場でなければならない。
 島の未来を考える視点として、次の点を提起して基調報告に変えたい。
一、この島の問題は私たち自身の問題であり、島の未来を決めるのは島の主人公である私たち自身である。
 このシンポジウム開催に向け中心的に動いてきた実行委員の多くは本土からの移住者、それも若者である。地元の人間が真っ先に考えるべき問題から、地元の 人間が逃げる訳にいかない。このシンポジウムにかかわるようになった個人的な事情であるが、このシンポジウムで提起したい最も重要な点である。
一、地域の問題であれ、島の全体像、未来像の中で考えるべきである。
 マスコミ報道に見られる大規模な宅地造成計画やリゾート開発計画を、現在のバブルという特異な状況の中で考えるなら、これらは一地域であると同時に、島 の全体像、未来像の中で検討されなければならない。
一、しがらみの多い島社会を克服すべきである。
 しがらみのない移住者の皆さんに気軽さはあるにせよ、彼らが何に反対し、なぜ反対しているのか、まず理解すべきである。理解せずに、一部のナイチャーが 騒いでいるだけと考えるのは誤っていないか、賛成でも賛成といえない、反対でも反対といえないのが島社会である。けれども、島が危機的状況にあるとき、そ れでは悔いを残すのではないか?島の豊かな自然と美しい景観を大切にしたいという想いは一つであり、意見の相違があろうと、何が島の未来のためになるのか 真剣に話し合うべきである。
一、島の自然・景観を語ることは心の風景を語る事である。
 シンポジウムのサブタイトルに「どうなる!島人の心と文化」という文言がある。島の自然と景観問題は島の活性化、地域の活性化と密接な関係があり、それ は私たちの生活の理想像、心の風景と表裏一体であることを忘れてはならない。私たちの心の風景が映し出されている町並みは美しいだろうか?私たちの日常的 な振る舞いに心の豊かさが感じられるだろうか?子供達は健やかに育っているだろうか?
一、急激な都市化、観光地化はひずみを生む。
 急激な都市化、観光地化にともなう風紀の乱れ、子供たちへの悪影響を懸念する声がある。
一方、従来から深夜まで飲んで騒いでも珍しくない夜型社会のこの島は、ますます「眠らない街」になりつつある。たぶん泥酔による路上寝全国一、青少年の刑 法犯は全国ワースト一位である。深夜に客が来る、深夜営業の店ができ、そこで働く人が増える。その背後には家族があり、子供たちがいる。日本を代表するリ ゾート地として有名な軽井沢では、コンビニでさえ午後11時以降の営業は許可されていない。この街は果たして理想の街に近ずいているのか、塾考すべきであ る。
一、島人らしさとは何か、真剣に問うときである。
 この島には八重山の各離島、宮古、沖縄本島、台湾、本土出身者が住んでおり、今でさえ合衆国と言われている。心の故郷を別に持っている人が少なくない。 そこへ移住者の急増である。島人(シマンチュ)とは誰のことか?島の風土を急速に失いつつあるこの島は、島人らしさという共通の理念を持ち得ないまま漂流 していく可能性がある。この島に住む人間は島の現在と未来に対し責任を共有すべきで、それが島人の条件ではないか?地元の人間と移住者との恊働の可能性は ここからしか拓けてこない。
一、豊かな自然と美しい景観を守るのは私たちの具体的な行動である。
 どんなに議論しても、たとえ素晴らしい提言があったとしても、言葉だけでは無意味である。自然に手を加える大型開発から、美しい景観・美観を損ねる身の 回りの小さな問題まで、豊かな自然と美しい景観を守るために必要なのは、市民一人一人の具体的な行動である。



講演  石垣島のくらしと未来 〜島嶼経済の視点から〜 講師 東海大学准教授 松島泰勝

 大規模リゾートによって地域は発展するのだろうか。画一的な開発内容で、中央の資本に依存した、リゾート法に基づく「地域活性化」策は破綻した。沖縄で も「リゾート沖縄マスタープラン」が実施されたが、国の支出金に大きく依存し、自立には程遠いといえる。
通常、人口の増加、企業の投資を経済自立、活性化の指標とするが、本当に島の人は今に石垣島の「ミニバブル」に豊かさを感じているのだろうか。ブームはい つか過ぎ去り、リゾートに依存した地域は路頭に迷うことになる。破壊された自然、景観は簡単には再生できない。
石垣島らしい観光とは何であろうか。島の自然や文化をしっかり残しながら、農業、漁業、地場産業等との連携を深める。観光収入が島の中で循環するような仕 組みをつくることが、観光客数の増加よりも、島の経済自立にとって重要である。
次にグァムとパラオにおける観光のあり方を考える。観光客数の増加を目指して開発を進めてきたグァムの場合、環境の破壊、「ザル経済」、外部企業による経 済支配等の問題が顕著である。他方、パラオでは環境、地元民の観光業への参加、住民の生活を最優先に考えている。パラオでは住民の自治力が強く、観光業を 住民が考える方向に導くことが可能になったといえる。
リゾートや新空港によって自動的に石垣島が経済自立するとはいえない。島の安売りでは、開発が進み、観光客から飽きられてしまう。地域自立の主体は住民自 身である。住民が島の発展の方向性、理念を示し実践しなければ、行政だけでは島の乱開発を解決できないだろう。文化、自然を保全するための施策として次の ような方法がある。開発規制地域の設定、入域制限の期間や人数の設定、島独自の厳しい環境アセスの実施、自然環境保全・利用ためのガイドラインの設定、土 地利用委員会による乱開発の規制、入島税による環境保全活動やモニタリング調査の実施等である。
石垣島は観光の島である前に、人間が生活する場所であり、開発において住民との共生が前提となる。石垣島独自の観光や生活のあり方、厳しい環境保護の姿勢 を世界に提示することで、島の人間が観光客や投資企業を選び、島の宝である自然や文化の価値を損なわずに子孫に引継ぎ、今の生活も安定化させることも可能 になるだろう。

 1963年石垣島生まれ。博士(経済学)・早稲田大学。在ハガッニャ(グァム)日本国総領事館、在パラオ日本国大使館において専門調査員とし て勤務。現在、東海大学海洋学部海洋文明学科准教授。


 パネル ディスカッション


三木:今島に押し寄せている大きなうねりを、平成の大津波と私は言っ ているが、復帰後3度目の大きな波ではないかと思う。
復帰の時には、それを見込んだ土地買占めがあったが、住民運動もあって買戻しなどが行われ、切り抜けてきた。1977年にリゾート法ができて、第二の波が 発生し、その後バブルがはじけて、リゾートが破綻している。状況はそれぞれ違い、今回の第三の波は、団塊の世代の大量退職、移住ビジネスという形で起こっ ている。6年後に新空港ができるということで、それを当て込んでの動きもある。
八重山は、合衆国と言われるように、昔から移住者が来ている。昭和10年代には台湾からの農業移民も来ている。反対運動が起こり、台湾移民が持ち込んだ水 牛を防疫法で引っ掛けて追い返せということも起こっている。しかし、台湾の人たちの農業の努力が認められて今日に至っている。1950年代には、宮古や沖 縄本島から移民が入ってきて、たくさんの集落ができている。このようにいろいろな過程を経て受け入れながら、八重山らしさを失わずに今日に至っている。し かし、この第三の波は果たして、今までのように自然に任せるだけで八重山の独自性が保たれるのかが問われている。

 テーマ「観光産業の光と陰」

宮平(基調発言):
昭和47年の復帰時点では八重山の観光客は3万7千人しかなかったが、昨年は77万人、実に20倍に伸びている。こうい う観光地はおそ らく日本国内にはない。観光収入も、昭和47年の約7億円から昨年は536億円と、76倍に伸びている。しかし、観光客一人当たりの消費額は、平成8年が ピークで大体10万円、 それが徐々に落ちてきて、昨年は7万円ぐらいになっている。観光客数が増え、滞在日数が増えていくと、当然、自然や環境に対する負荷が増えてくる。数を増 やすことも必要だが、じっくり自然、文化、人情に触れて、ま た来ていただけるということでないと、島々は荒れ果てて、結局お客様が減ることが予想される。皆さんと一緒に知恵を絞りながら、いろいろなメニューを開発 し、本物の観光地を作らなければいけないと思う。30年から50年のスパンで考えれば、日本の人口が徐々に減っていく。(観光客数が無限成長を遂げるの は、まず不可能だろう。)将来的に観光人口が減った 時、それを支えるのは、近場のアジア、世界各国の観光客の皆様だと思う。例えば、台湾と八重山は大変よく似ている。観光客はやはり違うところに行きたいも のだから、八重山らしい独自の魅力をつくっていかなければならない。観光客が増え、観光収入が増えても、本当に八重山が自立しているかという問題がある。 観光産業と農業、漁業などとリンクして、お金が八重山に残るような観 光地を目指さなければ、本物の観光地にはなりえない。

三木:松島さんのお話では、入島税を取ったらどうかということだった が、市長としてはどんな考えか。

大浜:他所からやって来る方々にだけ賦課するのは公平感に欠ける。こ ういう形が良いのか、それとも市民全員に環境税などの形で安く広く負担してもらうのが いいか考えなければならない。財政的に苦しくなってきているので、法定外目的税を設置する動きがいま急速に広がっており、石垣市も決してやらないという訳 にはいかないかもしれない。

松島:今、座間味村で環境目的税を取るかどうか議論しているが、住民 会議を開いて徹底的に話し合う方法を取っている。外から人が入ってくると環境への負荷 になるので、島の良さを守るためにも税を早く導入することが重要だと思う。
エコ・ツーリズム法が制定され、これに基づき条例を制定し、利用者数を制限したり、地域が重要と思う場所については罰金も科すことができるようになった。 環境目的税、エコ・ツーリズム法を生かすことによって石垣島の良さを守るということも重要ではないか。

三木:島田さん、農業の観点から、観光との関連についてどんな風にお 考えか。

島田:今の状況は、復帰前後に長期干ばつ、大型台風のために裏石垣の 生産効率の悪い土地を農家が手放してしまったことに始まると思う。生産基盤が悪いとこ ろでは安易に農地を手放してしまう傾向があり、リゾートに期待するあまり農業に身が入らないこともあると思う。
日本という大きな市場を考えたら農業には大きな可能性がある。私は熱帯果樹をやっているが、それができるのは沖縄だけで、条件がいいのは石垣島だ。それ が、観光客、観光産業と結び付けば健全な観光資源にもなり、果樹園にすれば赤土流失の防止にもなる。

三木:観光産業と農漁業との連携がよく言われるが、宮平さん、どう か?

宮平:ぜひいっしょにやって行きたいと考えているが、野菜等八重山産 の仕入れは30%程度だ。石垣島の農業はさとうきび、パイン、畜産が中心で、地産地消 という観点から言うと、ミスマッチがある。行政の調整をお願いしたい。

新垣:私は観光業には「光と陰」があるという前提でこれまで八重山の 観光業を見てきた。今、観光業のカゲの部分があまり語られてはいないのではないかと思 う。八重山の現状における大きな問題点は、外部からの観光客急増問題だ。観光客が増えれば環境への負荷が出てくるし、環境に対して手当する経費がかかるこ とになると思う。観光業界の皆さんが、どのようにすれば「量から質に」転換できるのかということを示して頂きたい。観光業は第三次産業・サービス業に分類 されているが、自然の風景や海や白砂などの恩恵を受けているわけだから、限りなく一次産業に近いと言える。そのことを認識して頂き、案内看板等の公共サイ ンや駐車場など観光インフラの整備などを具体的に提案して頂く時期にあると思う。

潮平:観光産業は地域の自然と文化、人々の健全な生き様を光として見 せることだ。
たとえば、民俗芸能は本来神への願いの芸能だが、観光客に見せる芸能になってはいけない。観光によって伝統文化が壊されていく危険性がある。その責任は見 せる側、提供する側にあり、しっかりとした自覚、意識を持つ必要がある。

宮平:伝統文化については迎合すべきではないと思う。
入島税については、観光客からだけ徴収することには観光協会として断固反対した。(観光産業のおかげで人口がここまで戻っており、観光産業に従事している ひとは八重山全体で七千から八千人いる。地域とその人たちの職場を守る必要がある。)島の自然を守るために、例えば飛行機に乗る人すべてから徴収すると いった、公平・平等が前提で、ただ財政が厳しいからというのでは、理解は得られない。また、入島税を徴収しても、地方交付税が減額され、丸ごと島で使える のかという税制上の問題もある。


 テーマ「大型開発と環境破壊」


上村(基調発言):
多くの皆さんが島の自然が失われていくことに危機 感をお持ちだと思うが、風景条例を守るだけでは自然や生物は守ることはできない。空間 的に限られた島で開発を行うと、環境影響も大きなものとなる。島の規模、環境特性にあった土地利用や経済活動を考える必要がある。島の将来像やグランドデ ザインを市民、NGOの参加のもと作成し、自然を残すべき場所と利用する場所を予め決めることが必要だ。また、自然環境保全条例の特別地区指定を行う必要 がある。さらに、対象事業や規模を厳しくした独自の環境アセスメントが必要だ。計画段階で影響を評価する戦略的環境アセスメントの導入も不可欠だ。
移り住む人は権利を主張するだけでなく、長い歴史の中で島の人々が守ってきた地域への責任や義務をともに担っていく覚悟が必要だ。島で暮らしてきた人々 も、先人が守り、残してくれた自然や文化を守り、次の世代に受け継ぐ強い意思が必要だ。
持続可能な島の将来像を描くためには、コミュニティの力が重要だ。公民館がしっかりとした自治基盤となり集落単位で移住者の皆さんとの調整を図ることが必 要ではないか。

三木:自然の利用と保全についてのグランドデザインを作るべきではないかということについて どうか。

大 浜:日本の法律は開発促進型だ。石垣の条例も、絶対従わなければいけない というものではない。農地法とか森林法とか様々な法律を総動員して、いかに環境を守っていくかということを常にやらないといけない。もっとも大事なのは市 民の意識である。
石垣市は条例に基づき審査し、条例に従わないものは、不同意を通知する。ま た、地区指定を広めていくことが私達の責務だと考えている。

上 村:市として自然を守るための独自の考え方はないのか?

大 浜:原野でも、積極的に市の財産として残し、一坪も売らない。残念なが ら、旧市有地の一部が企業に渡っているが、できれば買い戻したい。文化財のあるところなど貴重なところは、積極的に市の所有としていかなければならないと 思う。

三木:3000平方メートル以上の大規模開発があちこちにある。これ をどう変更させるか、止めさせるかということに、市民の関心がある。遠藤さん、どう か。

遠藤:大型開発だと、山を削って谷を埋める、表土をほとんど取って地 形を変える。どうしても平らにしないと経済効率が悪い。風景計画では、削るのは二m、 盛るのも二mという制限が加えられた。これが一番決め手になるのではないか。
実際に作るときに重要なのは、地形を変えないことだ。数百年数千年かけてできた表土は、樹木、植物を育てる場合非常に大切なものだ。それと、排水は必ず浄 化させること、雨水をできるだけそこでしみこませて外へ流さないことも。
経済優先で、大型機械でやるのでなく、自然環境を優先して開発することを条件として出せたらいいと思う。

新垣:行政側のメッセージが少し弱過ぎるのではないか。市全体のまちづくり のなかで、どこを残し、どこを開発するかという計画に基づいたメッセージが見えてこない。

三 木:米原リゾートについて、一方で農振を解除して、しかし景観計画の網を 被せる、市長、メッセージ性が弱いのでは。

大 浜:市長として10何年やっているが、やはりいろんな方々がおいでになる と強く感じる。その中でこの町を一つにまとめていくのは非常に難しい。周辺の皆さんはリゾートへの要望がある。一方、ウミガメが利用しているだとか、山の 景観に合わないとかが出てくる。結局、条例に合わせて私たちはやるしかない。したがって、風景条例を守ってもらう。風景条例を、しっかり守っていく、それから意識を高めて、市民のみなさん方 に趣旨を分ってもらうのが、私たちのやり方ではないか。


松島:住民の自治が基本的には重要だが、大きな企業が企業の利益だけ で自然、風景を壊すことに対抗する力を持っているのは行政だから、住民の声を代弁する 役割が行政に求められていると思う。
条例化により石垣島独自の環境アセスメントをすすめることも重要だと思う。

会場:移住してきて八年、北西部の公民館長を四回勤めている。五五世 帯の集落で今年になってから3名の方が亡くなったが、一人は独居老人で集落のみんなで 野辺の送りをした。健康、福祉、そして介護は大変大きな問題である。中高年の移住が増えているが、移住は、安易にすべきでない。移住者には集落で守られて きた「おきて」を破るものもいるし、多くの移住者が入ると本来の田舎の集落の様相ではなくなってしまう。北西部の水のことを、大変危惧している。一日の供 給水量は、3300名分だが、今すでに2700名分の使用量になっている。基本的なインフラの未整備がある。島にとって「総量規制」が必要だと思う。島の キャパシティ、人口はどのくらいまでか、考えなければいけない。
移住者は、この島の独自の文化、生活を認めず自分の価値判断だけでこの社会に「土足で入っていく」ことがあってはならないと思う。


 テーマ「まちづくりの青写真」

潮平(基調発言):我々がしっかりすれば、夢の持てるような未来への 街づくりができるのではないか。
市民会館の設計は、コンペをして決めた。市立図書館は市民の利用度合いが高いことが評価されている。建築家は、そこに住む人々の幸福度、快適さを追及して いて、専門家でなければ考え付かないアイディアがある。(街づくりでは、法律さえクリアすればよいのではない。)街並みは一軒一軒が並んでできるので、市 民はどういう街並みをつくるかという責任がある。もっと責任があるのは設計者であり、どういう街並みにするかを民間レベルで熟慮するべきで、それを行政は バックアップしてもらう。そうしないと素晴らしい街並みはできないと思う。
ここ30年間の街並みの変化には、町として進化してゆく町になるだろうかという疑問を感じる。私たちの町は文化が熟成する空間であるかどうか疑問に思うこ とがある。街並みは私たち島に住む人がアイディアを出して作り上げていくものだ。

三木:(公共建築物がいかに景観に寄与しているかという話だった が、)市街地の東側ではどんどんアパートやウィークリーマンションが建っている。それをど う規制し、あるいは指導誘導してゆくかが景観条例の大きな課題ではないかと思う。この点についてどうか。

遠藤:大浜ではアパートが多く、全くと言っていいほど緑がない。この ままいくと、東京都心のようなヒートアイランドになり、夏になるとものすごい暑さにな る。 風景条例の、市街地に20%の緑地を作るという数値目標は、かなり少ないが、ないよりは良い。
街全体を見るとコンクリートブロック塀が非常に目立つ。ブロックにツタを這わせる壁面緑化、セットバックしてそこに植物を植えるといった市民の運動が必要 ではないか。自分のためだけでなくみんなのために植物を育てるということが積み重ねられると、街づくりに対する考え方も変わっていくと思う。
緑、植物に関わる機会がどんどん少なくなってきている。もっと個人個人が自分で植物を育てる機会を増やしていかないと、なかなかいい街にはならないと思 う。それには、行政もベランダ園芸のための土を提供するといった努力をしていいのではないか。
街路樹は植えただけではだめで、手入れをしないときれいにならない。街路樹は作っていくものだ。県は街路樹の剪定をしているが、是非市も街路樹の剪定をし て、街並みをきれいにしてほしい。建物や看板はまちまちでも、一種類の街路樹が通ると、街に統一感が出てくる。街の中の風景で街路樹の占める割合はかなり 大きい。

三木:石垣の街は木陰が少なく、本当に暑い。去年ベトナムへ行った が、どこも緑豊かだった。植わっている木を見るとクワデサー(モモタマナ)だった。これ なら沖縄でもできるのではないかと思った。

大浜:いろいろな方がおいでで、木はないほうがいいと思う人もおいで になる。しかし、この街に合っている植物、この街で進化した植物は重要だと思う。道路 を拡張するときによく屋敷内のフクギを伐るが、これを生かしていい通りを造りたい。そろそろ、よい風景は何かということを、市民が積極的に考え出さないと よくないと思う。
風景条例ができ、個人の好みや望みを相当制限するということもあるので、意識の改革や深い理解を求めたいと強く思う。風景条例には市民の協力が必要だと 思っている。

遠藤:道路の植樹枡の大きさは全国同一だが、沖縄県の場合と他府県 は、明らかに植物が違っている。成長の速さも当然違うので、それと合わない。一番疑問に 思うのは、道路を造って、植樹枡や植樹帯を作ってからどの木を植えるかを決めることだ。道路を造る前に、そこにどういう街路樹を植えるかを決定して、その 木に合わせた植樹枡を作るべきだ。設計段階から植栽の知識を持った人が携わるといい。

上村:生物多様性を保全するというのは何も自然エリアだけのことでは なく、市街地についても重要だ。緑も生物の一部だし、緑地をいかに確保するかというこ とが生物多様性を高めていく上で重要だと思う。街づくりということばを限定的に捉えるのではなく、石垣島の幅広い環境の中で自然と生物の多様性を高めなが ら、それぞれの地域にあった自然度の高め方に取 り組んでいただきたい。
全国では人工的な河川となったところを自然護岸に直していくような公共事業が実施されている。石垣島でも親自然型のあるいは自然再生型の公共事業を進めて いただきたい。若い人が働くために農地をつぶしてリゾートを作るという発想があるが、農業の可能性を高めていくことも大きな課題ではないか。やはり石垣島 で大きな土地の ウェイトを占め、基幹産業といえる農業の振興に力を入れていただきたい。

島田:私は、個々に入ってくる移住者のことを、農村の現場にいて非常 に危惧している。農村は連帯で動いている。みんな、一緒になって仕事をしなければなら ない。そういう農村に、本土から金を持っている人がポコッと入ってきて、農村の生産基盤を崩している。
吉原にマンションの計画があるのも、10年ほど前に違反建築をし、何回も指導に行っても聞き入れてくれず、居座った方だ。それが今になってマンションを建 てると言っている。そういう風に発展しかねない。だから、市民みんなで、意識をもって監視していただき、できるだけそういう違反建築のないようにしていた だくことが肝要だと思う。
農村あるいは農家が、景気や制度が悪くなれば土地を手放すことが起きてくる。だから、農家、農村が元気であるということが大事だ。農業が持続的に中長期的 に発展するような農政を考えなければならない。

潮平:市長へのお願いだが、是非街路樹の長期計画を立ててほしい。そ れを毎年の予算に反映させることにより風景が完成していく。そのためには、職員もスペ シャリストを配置することが必要だ。


 テーマ「まちづくり島づくりの主体」

新垣(基調発言):今回の私たちの運動は純然たる自然保護運動ではな く、「この島をどうするのか」という、大げさに言えば「島を守る」運動だと思う。最後のテーマ、まちづくり、島づくりの主体についてだが、この結論はもう 出ている。つまり、まちづくりの主体は間違いなく市民である。しかし、この主体た る市民が、現在の島のかたち、乱開発、無秩序なアパートやマンション建設、新川川等での赤土汚染問題を身近で見ていながら、沈黙してしまっている。住民の 意思が表明されないまま、外部勢力によって、或いは外部の好みによって、町が変えられてしまうのなら、これは由々しき問題ではないかと思う。
「こんな女に誰がした」という唄があるが、「こんな石垣島に誰がした」と問われたら、行政はかなりの部分、負わねばならない責任があると思う。それと同時 に私たち市民が何をしたのかということが問われるのではないかと思う。行政を責めるだけでなく、行政と協動しながら市民側が何らかの力を蓄えて、市民の意 見をしっかりと表明すべきだ。
ただ、残念ながら行政は昔から情報を開示したがらない。行政の側には色々な開発情報が集中する。これを市民に開示して意見を求めると共に、自信を持って、 自らのまちづくりの理念を進めていくべきだと思う。
また、石垣では旧住民と新住民がタイアップしながら新しいまちづくりの協動ができるかということを探る時期に来ていると思う。このシンポはまさに、新旧住 民がこの三ヶ月、二一回の準備委員会を経て実現した。お互いにけなし合うだけでなく、力を合わせ、共にこのまちづくりに関与していきたいと思う。

大 浜:私も常に市民と協働で街づくりをしていきたいと呼びかけている。情報 公開条例があり、市に対して情報の公開を求められるというシステムを作っているわけだから、私たちも情報を隠したり、公開しないというつもりは決してなく て、大いに情報を活用していくということだ。
国立公園でも風景条例でも説明会が各地でやられているし、行政懇談会や教育 懇談会の会合を公民館などでやっているが、市民の参加者が少ないと感じる。もう少し積極的に来て欲しい、市民の皆さんの意見をうかがい、互いに住みやすい町を作っていきたいと思っ ている。

三木:会場のみなさんから是非これだけは言っておきたいというのがあ れば短く。

会場:今回のシンポジウムは、島が危ないでなく、島人が危ないだ。開 発を押さえつけることは、建設業、造園業、ひいては、石垣を潰すことになりかねない。

会場:開発の話だが、リゾート開発に絶対反対ではない。土建業は公共 事業で自然再生事業に向かったらどうか?
私達は、命を大切に開発することが求められている。経済発展のためだけからの脱却と反省が問われている。

会場:私は、阪神大震災を経験し、九死に一生を得た。震災は人間の自 然への不遜な行為、人間が自然をあなどった結果と感じた。
石垣島を心配しているのは、島人だけではない。神も仏も心配している。このシンポのようなコミュニティの輪を拡げましょう。

三木:開発の波の問題に、前からいる住民と移住者が同じテーブルにつ いて論議しあう機会はあまりなかったのではないか、これは大きな成果だ。景観法は、私 たち自身に投げかけられた問題だ。私たちが何を望んだかが、景観、精神文化に反映していくだろう。
市に要求するだけでなく、市民一人ひとりが何が出来るか、を問うことになる。

会場:島が危ない、島の景観と自然の維持保全もさることながら、島人 の心と文化、これらはクルマの両輪だ。中でも人の和、人の心、人と人との人間関係を議 論する、こういった面に行政側も力を入れてもらいたい。

三木:市長に皆さんの意見を踏まえて決意を表明してもらいます。

大浜:島の人間は長い間住んで感覚が鈍くなり、島の良さを誰かが指摘 してくれないと気づかなくなってきている。島の外から多くの方がきて、私達より島の良 いところを発見してくれている。行政にも意見を言ってもらって、政策にも反映していきたい。
自然は見ればわかるが、文化の素晴らしさを発見してもらい、お互いに市民としてコラボレーションし、協働のまちづくりをお願いしたい。

会場:米原のリゾートは基準よりもかなり大きな計画だが、条例で指導、勧告 した結果、条件に合わない場合は市は不同意とするのか。

大 浜:そのとおりだ。

会 場:法律を総動員して自然を守るために自治能力を高めなければならない、 という話があった。風景づくり条例に合わない米原リゾートの農振除外は決定前に考え直していただきたい。

大 浜:リゾートができるできないの問題でなく、農振除外の基準で見るべき だ。この件はタイミング的に過ぎているし、これ以上議論したくない。


三木:最後に松島さんお願いします。

松島:今日は石垣島の未来を考え、景観と自然、島人の心と文化を話し 合ってきた。この話し合いは、開発をしようとしている企業、自分の欲望だけで開発しよ うとする人たちに対して、大きな力になるだろう。
このシンポジウムは今日で終わるのでなく、これからの市民運動としてつなげていただきたい。今日の話し合いから、島を守るための方法がたくさんあると分っ たが、これを実行に移すことが石垣の人の課題だ。島を作るのは住民であり、住民が市の基本である。住民が行政を動かす、そういう気持ちを持つことが重要 だ。



 島の未来シンポジウム宣言

 今、私たちの島が危ない!

 今、私たちの愛する八重山の島々が大きな岐路に立たされています。今、私たちの祖先や先人たちが守り育ててきたこの島が開発の大きなうねりに巻き込まれ ています。美しい自然が残り、豊かな文化が残っているが故に、多くの観光客が訪れ、中長期の滞在者が増え、本格的な移住者も急増しています。同時に、それ らの移入人口を当て込んだホテル、アパート、マンションの建設ラッシュが起こっています。多くの島外資本が流入し、緑濃き山野や農家の汗がしみ込んだ農地 は、リゾート用地や大規模分譲住宅地として高値で転売されています。今、島の心がお金で買われています!

 市街地では、私たちが台風対策や便利さを求めたこともあって、伝統的な町並みが失われつつあります。わずかに残った赤瓦の家もこの投資ブームの中、福木 の古木と共に消え、アパートやマンションに建て替わろうとしています。また、眺望や景観に優れる石垣島の北西部地区では、インフラも整わない中、別荘や住 宅などが様々な意匠で次々に建てられています。このままでは島の景観のみならず、自然環境に及ぼす影響は計り知れません。この島々の急激な変化は、私たち 人間の心、島の風景や自然の許容範囲も超えてしまいそうな勢いです。 

 私たちの国は過去にバブル経済の崩壊で大きな痛手を負いました。全国各地に贅を尽くしたリゾート施設が乱立し、国民の多くは消費を美徳と勘違いしまし た。札束が飛び交い、いつまでもこの景気が続くものと信じました。今の石垣島や八重山を「ミニバブル」と言う人がいます。このことは、私たちが心のどこか で過去の教訓を感じていることに他なりません。「いつかは弾けるだろう」と。それならば、私たちの取る行動は一つです。これ以上バブルを膨らませずスロー ダウンさせ、島を崩壊から守るべきです。

 先に石垣市は「風景づくり条例」を提案しました。市民からも条例制定を望む声が高まり、石垣市議会は全会一致でこの条例を可決しました。私たちは市民の 立場で、行政が島の景観を守り、自然を守るために充分な指導力を発揮できるよう、今後とも積極的に行動していきます。そして行政に対しては、懸念されるよ うな景観・自然の破壊や大型開発の情報を、速やかに私たち市民へ公開するよう強く求めていきます。

 私たちは今回、「八重山の観光ブーム」、「石垣島のバブル状況、大型開発と環境破壊」、「街づくりの青写真」、「街づくり島づくりの主体」等々をテーマ に、さまざまな角度から島の現状を検証し、島の未来像を熱く討議しました。そして、島の未来を決める主人公は私たち自身であるという原点に立ち、島の未来 を考え行動する共通の指標として、ここに次のとおり宣言します。

 一つ、島の豊かな自然や美しい景観を「守ること」
 自然や景観を守り八重山独自の観光の在り方を創り上げることが、観光業だけでなく、農業や漁業、その他の産業をおこし、共に持続可能な地域経済の発展に 繋がります。

 一つ、島の豊かな自然や美しい景観を「育てること」
 島の心と文化は、豊かな自然と美しい景観から生まれました。今ある自然を守るだけでなく、失われた自然を再生すること、景観を残すだけではなく創り育て ることが島人の心と文化を守り育てることに繋がります。

 一つ、島の豊かな自然や美しい景観を「伝えること」
 今、私たちは祖先や先人から受け継いだこの島で生きています。この自然と景観を守り育ててくれた彼らに感謝します。そして私たちの子孫が同じ気持ちで私 たちのことを想ってくれるよう、この島を次の世代に伝えていかなければなりません。その実現を見るとき、過去から現在、そして未来へと世代を越えて島人の 心が繋がります。
     
  2007年6月24日  緊急、島の未来シンポジウム

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