サンゴ礁とオニヒトデ サンゴの敵の正体を知る

オニヒトデに対 する興味はその大発生とサンゴの食害問題に向けられているが、学術的には「サンゴ礁は熱帯の海において種の多様性の高い安定した (バランスが保たれた)生態系を形成する」という過去の先入観に基づいた誤解を打ち砕いた点で大きな意味がある。

オニヒトデによ る造礁サンゴ類の食害問題は沖縄においては30年以上続いている。マスコミが最近再び取り上げて注目を集めているが、本質的な問題 解決は視野に入っていない。

 オニヒトデ 騒動の発端 (オーストラリアのグレート・バリア・リーフ)

1960年代の はじめに、オーストラリアのグレート・バリア・リーフの観光名所であるグリーン・アイランドで大発生が起こった。サンゴを食害から 守るためにダイバーがオニヒトデを駆除したが、食害はさらに広がり、グレート・バリア・リーフの三分の一程度が影響を受けた。

オー ストラリアでは1960年代の大発生が下火になり、サンゴは回復し、オニヒトデ問題が忘れ去られようとしていた1980年代に再び 大発生の衝撃が走った。1980年代の大発生も前回とほとんど同じ場所から始まり、同じように拡大した。2回目の大発生を受けて、 オーストラリアは国をあげて研究・調査に取り組んだ。

1990年代に も大発生が始まったが、モニタリングの結果から、その範囲が拡大していった様子は前回と同様に北部から南部に向け、夏の産卵期の 海流で幼生が運搬されて広がったことを示唆している。

History of outbreaks of crown-of-thorns starfish on Australia's Great Barrier Reef since 1986 (Animation)
http://web.archive.org/web/20091014142706/http://www.aims.gov.au/monmap/cotsanimation/cots.htm

1998年には白化現象によるサンゴの大規模な死 滅が起こったため、グレート ・バリア・リーフのサンゴ礁の状況はさらに悪化した。

 グローバル なオニヒトデ問題

1960 年代の後半になると、ミクロネシア諸島のグアム、パラオ、トラック、ポナペなどの主な島々で大発生が見つかった。引き続いて 南太平洋の多くのサンゴ礁でも大発生が見つかった(フィージー諸島、クック諸島、トンガ、その他)。沖縄でも1969年には恩納村 から本部町の沿岸にかけて大発生が始まった。

オニヒトデはインド洋と太平洋のサンゴ礁が分布する全海域に広く分布している(図の中の

オニヒトデの体色には地域によって個体変異があり、インド洋には体色が紫色
(モルジブ産:下の写真 http://www.maldives.at/fotos6.htm) のものが見られる

東太平洋(パナマ海域など)では、かつては別種と考えられていた、かなり見かけが異なる集団が ある(遺伝的な検討の結果、同種と見なされた)

 沖縄の オニヒトデ問題

  •  1969年 に始まった大発生以前にも、何回も大発生を繰り返していたらしい。
  •  1970年代には沖縄本島と周辺の離島でサンゴ礁 が食害で丸坊主にされた。
  •  1980年代には先島(八重山と宮古島)のサンゴ 礁で大発生し、一部を残して食べつくされた。
  •  1990年代の前半には沖縄全体のサンゴ礁の回復 が進んだが、沖縄本島だけ慢性的な状態で回復途中で再発生を繰り返してきた。

 日本本土に おけるオニヒトデ問題

  •  1970年 代(沖縄で大発生中)には、四国の足摺岬、和歌山の串本、伊豆の三宅島でオニヒトデが出現してサンゴを食害。これらは沖縄海域から 浮遊幼生が運ばれて暖冬で生き延びた結果だったらしい。
  •  1980年代以後は奄美群島から鹿児島県南部にか けてオニヒトデの大発生が見られ、現在まで続いている。

 オニヒトデ 大発生の拡大傾向

  •  どこかで大 発生が始まると、その次の世代が別の 場所で大発生し、影響を受ける場所がしだいに拡大する傾向がある(日本とオーストラリアで共通)。
  •  大発生した場所では餌サンゴの消滅に続いてオニヒ トデが消える (飢死ではなく数年繰り返した繁殖を終えて寿命が来るのだろう:移動や駆除で消えていない?)。

 オニヒトデ の駆除方法

  •  沖縄ではオ ニヒトデは人手で採る方法が一般的だが、昼間にサンゴの隙間に潜んでいるオニヒトデを採りあげるためにサンゴを破壊する。
  •  ミクロネシア諸島ではホルマリン注射で現場処理す る方法が採用された。オーストラリアでは小規模な実験的駆除が行われたのみであった。

 沖縄と日本 各地でのオニヒトデ問題の対処法

過去の事例で は、ほとんど行政まかせで、オニヒトデを 目の前から取り除くことしか考えず、サンゴを守るという本質的なポイントを忘れていた。駆除予算が計上、執行される時期までに オニヒトデの食害がピークを過ぎていた。間引き駆除では生き残りの繁殖が続く(沖縄ではこれが慢性化を招いたようだ:戦略なしの 戦争で敗戦)。そもそも、駆除をするべきかどうかという出発点で何も検討されてこなかった。

 オニヒトデ との付き合い方の基本点

  •  ヒトデの大 発生は基本的に(自然現象)だろう(海の動物で個体数変動が大きいことは普通)。ただし、海洋汚染などの人為的な要因が場所に よっては重なって影響している可能性は否定できない。
  •  サンゴの食 害は一時的な問題である(時間がかかるが) サンゴ礁は回復・復活する。
  •  オニヒトデ の駆除のため公的機関が行ってきた事業で 成功したケースはほとんどない(サンゴを食べ終わったオニヒトデを間引き、サンゴは壊滅状態となった:駆除することが目的なのか?。)
  •  特定の狭い場所を限ってサンゴを守ることは可能 (集中して取り組み、オニヒトデの除去はできる)。

 オニヒトデ の起源

  •  化石は見つ かっていないが、ヒトデ類としては比較的 新しい時代に出現したらしい。
  •  大西洋のサンゴ礁には分布していない(約三百万年 前に出来たパナマ地峡の太平洋側には分布している)。
  •  同属の近縁種(砂底に生息する種類)と分かれたの が約百万年前と推定された。これらの二種は人為的に交雑可能である。
  • 最近、このオ ニヒトデに近縁種と見られるヒトデが日本でも 串本の近海で見つかっている:
    アカンサスター・ブレビスピナス 国内で2個体目  田ノ崎沖で刺し網に 串本海中公園センター

 繁殖期、産 卵数、寿命、その他

  •  沖縄本島で は7月頃から1ヶ月くらいの間に数回に分けて 産卵するらしい。八重山では本島より1ヶ月早い。ただし、これは10年以上前のデータであり、最近の温暖化で季節が早まっているようだ。
  •  直径30セ ンチのメス1個体は1千万くらいの卵を 持っている。卵から成体まで3年、寿命は6-7年くらい(生理的な寿命まで生きるのは少ないだろう)。

 オニヒトデ の天敵は何か

  •  オニヒトデ だけを専門に狙う敵は見つかっていない:ヒトデ類一般を襲う動物が敵。
  •  ヒトデを襲 うもの:ホラガイ、フリソデエビ、魚ではフグ の仲間やフエフキダイの仲間など。
  •  これらの捕食者はオニヒトデの大発生を抑えるよう な天敵ではないらしい。

 オニヒトデ の形態的特徴とその機能(サンゴをしっかり食べ子孫をどっさり作るように進化適応)

  •  内部骨格は 結合していないで上下方向に薄い体である → 柔軟に狭い隙間に潜り込める。
  •  多数の腕に無数の管足 → 基盤にしっかり張り付 くことができる。
  •  腹側の口から胃を展開させ外部の餌を消化する →  餌のサンゴの多様な形に対応できる。
  •  腕の中に栄養貯蔵器官と生殖巣を充満させる →  栄養貯蔵と生殖巣の収納空間を大きくする。
  •  背面に多数の棘がある → 外からの攻撃を防御す る。

    グアム大学の C.Birkeland :ファウスト伝説のようにオニヒトデは悪魔に魂を売り渡した、自分だけの繁栄をもたらそうとした動物で あるとたとえた。つまり、生態系の一員でありながら、それを激しく撹乱(自己の存在を保証する場の安定性をみずから破壊)する動物 である。しかし、生態系とは本来「安定している」のか?

 自然のアン バランス:我々は、自然・生態系はバランスがとれているものという錯覚を持っているようだ。

短 い時間で見れば安定したようにも見えるだろうが、地球上の環境は変化をつづけていて、それに従って生物も変動してきた。捕食者と 餌の関係でも安定したものは少なく、むしろ両方が複雑に変動する場合が多い。地球生態系は人間の出現後激しく変化している: 生物は自然環境を変え、環境の変化は生物にはねかえる。フィードバックが働く、動的なつかの間の安定状態が揺らぎ続ける アンバランスの世界が目の前の現実であろう。

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