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Amazon.co.jp  奄美大島―自然と生き物たち 西表島 マングローブの生き物たち 豊かな森の仲間たち

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1990’友人の出版企画で彼の観察記を元に作成した企画文です。同年7月から琉球新報に12回連載された時も、ニライ社で出版さ れた時も、この文章
は改編されておもかげすらなくなりました。「西表島 マングローブの生き物たち」吉見光治(写真、文)最後のあとがきも、1993’改訂版では外されま
した。
 
EDITON マングローブの役割と生態
 
CONCEPT
 
 地球環境保全が世界的に問われるなかで、日本の環境対策とその認識は、余りにもお粗末といえる。豊かな緑・水系と海に恵まれすぎた日本は、
山・川・海の織り成す生態の意味を理解せずに、享受だけしてきたとも言える。沖縄の島嶼性・亜熱帯・サンゴ礁生態系の持つ意味は、それがあまり
に美しすぎて、余りに滅び易いゆえに、今人類に問われている生態への認識を顕示させる。アカデミズムに無縁な、しかし自由で、その対象を愛でる
視線が、隠された秘密を覗く。
 
TITLE1 沖縄の海と山との掛け橋・マングローブ
  
 深い山々から続くフラットな湿地とマングローブ林の緑。その先に続くサンゴ礁の透明な海が、エメラルドグリーンのグランディーションを見せな
がら、深い青にと落ち込んでいく。琉球列島のなかでも未だ原始の面影が残る西表島は、豊かな自然に魅せられて多くの人々が訪れる。西表島は雨の
多いところ。四季を通じて降り注ぐ雨は、山の草木を洗い、落葉や落枝・腐葉土を運ぶ。湿地を抜け、やがて大小の河川に集まり、マングローブへと
流れ込む。濁流になって暴れる川でさえ、大きく広がるマングローブで、急速にその勢いを失ってしまう。栄養分を多量に含んだ土砂や落葉などの有
機物が、ゆっくりと沈殿する。ヒルギ群落の落葉も加わり、マングローブは貯蔵庫のように、落葉と土砂で満たされる。そして腐りかけた落葉などを
餌とするカニや貝たち、腐植食物連鎖という生態系が、マングローブを中心に、潮の干満というゆっくりしたリズムのなかで繰り返される。それは山
から運ばれる落葉や栄養分を、そこに住む小動物が餌として処理し、海へきれいな水として手渡す中継点ともいえるだろう。
 そんなマングローブに生息する様々な生き物たちを観察してみた。
 
TITLE2 天然の有機物処理場・マング ローブ
 
 潮が引き干潟が姿を表わす頃、カニ達も待ち焦がれていたかのように、穴から這い出してくる。食事の時間なのだ。ハサミを器用に使い砂を口に運
び、砂の中の腐敗しかけた有機物などを濾し取るという作業が始まる。それが砂ダンゴ作りである。シオマネキ・ミナミスナガニは穴の周辺で、ミナ
ミコメツキガニは引潮で表われる干潟を追いかけて、群れで行進しながら砂ダンゴを作っていく。やがてすっかり潮の引いた干潟は、見渡すかぎり砂
ダンゴで埋め尽くされる。リュウキュウオサガニだけは、泥質の水たまりでハサミを動かし水流を作り、有機物を口に運んでいる。
 あるとき珍しい光景を目にした。ブラインド内で鳥を観察中、一羽のカルガモが飛来した。カルガモが柔らかい泥の上を歩き、盛んに何かを食べて
いる。理解するのに少し時間がかかった。どうやら泥の上の有機物をすくいあげ食べているのだ。人間が見ても泥としか見えないものが、カルガモに
とっては餌となっている。これらはまだ、腐植食物連鎖の一部でしかなく、連鎖の環は意外な結果へと導いていく。
 
TITLE3 マングローブの浄化生物たち
 
 マングローブのもっとも奥・オヒルギ群落周辺では、干潟の影響も受けにくく、水は茶褐色に淀み、腐敗しているようにさえ見える。そんななか
で、所どころ透明な水たまりを見ることがある。注意深く見ると、何かが潮を吹き上げている。シレナシジミだ。入水官より水と一緒に栄養分を取り
込み、出水官より取り込んだ残りの水を出している。試しに隔離した水たまりにシレナシジミを入れてみると、翌日には見違えるほど澄みきった水に
なっているのに驚かされるだろう。栄養分に富んだ汚れ水を、栄養分の少ない透明な水に変える作業で、浄化を手助けしているのがシレナシジミなの
だ。
 このオヒルギ群落には、他に数種のベンケイガニの仲間が塚などを造り住んでいて、落下したヒルギの葉とか、ヒルギの根につく藻類を食べている
のが観察される。腐植食物連鎖は水の浄化システムでもあり、沖合いに広がるサンゴ礁には重要な意味を持つ。太陽の光を食べるとまで言われるサン
ゴ礁にとって、水の濁りは死滅を意味する。今日、問題視されている沖縄のサンゴ礁衰退は、赤土流出・家庭排水など水の濁りが原因とさえ言われて
いる。国・県の水産研究機関による有用水産物の種苗飼育と海洋放流は、シレナシジミなどの浄化生物を対象とすることが、真の水産振興と言えぬだ
ろうか。
 
TITLE4 豊かで複雑な生物層
  
 マングローブの豊富な餌が多くの生物を育む中で、そこに餌を求めて訪れる生き物たちも多種多彩である。潮の引いたマングローブには、陸上の動
物たちが盛んに訪れる。小魚を餌とするカワセミ・クロサギ・ダイサギ・コサギなど。カニが好物のハマシギなどシギ・チドリの仲間。また小さなカ
ニを捕えようとアシハラガニも隙を伺っている。カンムリワシはアシハラガニ・ベンケイガニなどの大型のカニを狩りに来る。リュウキュウイノシシ
も好物のカニを求め、そしてイリオモテヤマネコも鳥・魚を狩りにマングローブを徘徊する。弱肉強食の環は、潮が満ちても尽きることはない。捕食
魚カスミアジが小魚を追いかけ、カマス・ダツの仲間が物陰で小魚を狙っている。リボンスズメダイが、貝の卵だろうか盛んにつついて食べている
し、夜にはノコギリガサミが獲物を求めて徘徊する。他にもミサゴが魚を狙って上空を旋回している。
 このようにマングローブという小さなエリア内でも、水中生物と陸上生物が互いに干渉しながら、昼となく夜となく様々なドラマを展開している。
腐植食物連鎖もマングローブ生態系の一部でしかなく、複雑に組み合わされた自然の営みは、人間の食料となる漁業資源にさえも関わってくる。
 
TITLE5  稚魚たちのゆりかご・マングローブ
 
 ヒルギ類の生い茂るマングローブは、様々な環境を創造する。タコ足のようなヤエヤマヒルギの根・オヒルギの複雑なでこぼこの根・メヒルギの低
木林など。潮が満ち水面下に沈んだ複雑な空間は、小魚たちが姿を隠すのに絶好の場所となる。とりわけ栄養分に富んだ水には、動物プランクトン・
植物プランクトンも多く含まれ餌に不自由しない。こんな好条件の所は滅多にないと、海から稚魚たちが押し寄せてくる。海水と淡水が混じり合い、
塩分が多少薄くなっているはずだが、稚魚たちは平然と潮に乗って、奥へ奥へと侵入していく。しかし引潮になれば陸地になってしまうところが多
く、その前に退散しなければならないのだが、水路とか水溜まりに留まり、潮の上げてくるのを待つ場合が多い。捕食大型魚の侵入が不可能なので、
安全だからである。
 これら島と海の接点・マングローブやイノーが、稚魚たちのゆりかごであることを理解することが、漁業にとって大きな意味を持つ。今沖縄では残
念ながら、公共事業によってそのゆりかごが崩壊しつつある。
 
TITLE6 海からの侵入者
 
 マングローブが満ち潮になると、新たな動きが始まる。魚たちが餌を求めて、海から押し寄せてくる。まずフグの仲間ツムギハゼ・コトヒキが先を
競って姿を表わし、干潮時に傷ついたり逃げ遅れたカニなどを求め、先を競って侵入してくる。フグは身体を半分ほど水面に出しながら、ツムギハゼ
も負けずに、そしてコトヒキは猛スピードで駆けずり回り餌を探す。その後はもう大混乱。イワシ・ボラの仲間・オキフエダイ・アイゴの仲間・クロ
ダイ・カスミアジなど、それぞれが餌を求め、マングローブの奥へ奥へと侵入していく。捕食魚に追われ水面に飛び上がり、逃げ惑うイワシの群れ・
オニボラを追いかけるカスミアジ、バシャバシャ音をたてながら猛スピードで追い回す。時にはサメの仲間も背びれを出して、上流へと上がってい
く。そんな喧騒と混乱も干潮時には収まり、マングローブは何事もなかったかのような静けさに包まれていく。満潮時のみとはいえ、海の食物連鎖が
マングローブやイノーにまで関わる生態系の、目に見えぬ環が見えかける。
 
TITLE7 鳥とマングローブ
 
 マングローブを住処とする鳥たちは数多くいるが、もっとも適応しているのがカワセミのようだ。カワセミは清流にすむ鳥だが、沖縄ではマングロ
ーブである。餌の小魚が豊富だからであろう。餌場に姿を表わし物の10分もしないで、十分な小魚を獲り飛び去さっていく。数多く生息しながら姿を
見る機会が少ないのは、こんなところに理由があったのだ。アカショウビンもマングローブで良く姿を見かける。ミナミトビハゼが好物で、オヒルギ
群落によく見られる。サギの仲間も干潮時にマングローブを利用する。水溜まりなどに取り残された魚を追いかけ、ばたばた走り回っている。ほかに
オヒルギの蜜を吸いにヒヨドリ・メジロが押しかけ、シジュウカラ・サンショウクイも昆虫を食べに訪れる。ムラサキサギが営巣木にヒルギ類を利用
し、付近の湿地に餌を取りに飛び交っているのが、最近確認された。鳥たちにとってマングローブは、他に比較できぬ豊かな餌場であり、森と川と海
を併せもったものなのかもしれない。
 
TITLE8 旅鳥とマングローブ
 
 3月から5月にかけてシギ・チドリの姿を見かけるようになる。東南アジアなどで越冬していたシギ・チドリ達が、繁殖のため故郷を目指して北上途
中なのだ。遠くはシベリヤ・アラスカ方面まで渡って子育てする鳥さえいる。そして繁殖の終わった秋には、また家族を連れて東南アジア方面へ南下
し越冬する。そんなシギ・チドリ達にとってマングローブや干潟は、餌の補給と羽を休める重要な中継点となっている。満潮時などマングローブ域を
歩いていると、ヤエヤマヒルギなどの根に隠れて休息している姿を良く見かける。危険な動物が比較的少ないうえ、潮が引けば餌のカニやイソメ類も
多く、快適な環境なのであろう。またバードウォッチゃーの恋人とも称されるヤマショウビンも、毎年琉球列島を通過していくのが確認されている。
やはりマングローブや湿地で餌を獲り休息しながら、対馬・朝鮮半島・中国などへ渡っていく。旅鳥にとっては、国際空港なみの役割がマングローブ
にあった。
 
TITLE9 マングローブの不思議な生き 物たち
 
 マングローブを歩いていると、なぜだろう?なにをしているのだろう?と考えさせ る動物たちに出会うことがある。木陰でじっと動かないミナミト
ビハゼに出会った時もそうだった。近ずくと逃げるはずのミナミトビハゼが、逃げよ うとしないではないか。さらに近ずいて写真を数枚撮っても全く
逃げる気配がない。おかしい、少し様子が違う、もしかして寝ているのかもしれな い。いろいろ考え巡らしてみると、潮の引いたマングローブは水も
殆どなく、炎天下の砂泥域は40℃近くに水温も上昇している。これはあまり熱いの で熱さを避け、水面から離れたところで寝ているに違いない。後日
フィルムの現像が仕上ってきてびっくりした、この魚にはまぶたがある、魚が小さす ぎて撮影中は気ずかなかったが、そこには目を閉じたミナミトビ
ハゼの寝姿があった。なぜ、ミナミトビハゼにまぶたが出来たかは解らない。それは まだ、生命の神秘の領域なのかもしれない。
 
TITLE10 マングローブで見られる不 思議な行動
 
 潮の引いたマングローブの干潟に静かに座っていると、あちこちからカニ達が這出 してくる。餌を食べながら砂だんごを作っているのだが、良く見
るとあちこちでケンカしている。しかし勝負は呆気なくついてしまう場合が多い。中 でも良くケンカするハクセンシオマネキ・ヒメシオマネキのオス
同士のケンカは、互いに大きいほうのハサミをぶつけ合い力量をさぐりあう。明らか に大きさの違う場合、ものの一秒もしないで勝負がつく。大きさ
の変わらない場合、ケンカは稀に長引く。互いにハサミをかみ合わせ遠くへ投げ飛ば そうとする。不利な方は足を砂に埋め抵抗するが、ときには50〜
60cm宙を飛ぶこともある。それぞれの巣穴を中心とした縄張り争いなのだ。お気 に入りのメスに近ずく勢力争いでもある。しかしあまりに密集して生
息しているためケンカが絶えない。それにケンカばかりしていると餌を食べる暇もな くなってしまう。高密度な環境に生きるカニ達にとって、たがい
のハサミをぶつけ合い瞬時に相手の力を見抜く一見儀式化したケンカこそ、無駄のな い生活方法なのだろう。
 
ENDING
 
 一見無用に思えるマングローブの生態系を観察してみると、沖縄のみにかかわらず 地球環境にも果たす役割が明かされていく。それは沖縄の山と海
を繋ぐ欠かすことの出来ない要であり、自然の水浄化システムであり、漁業資源の源 であり、旅鳥の中継地でもあった。人は何時から自然に学ぶこと
を忘れてしまったのだろう。自然を失ってから自然を求めても、心の自然は戻ってこ ない。生態系という見えない環を感じ取る人々がまだまだ残る沖
縄から、感じ取ることから理解し学ぶときが目の前に来ている。経済の成長と発展の みに偏った行政体質が、これら有用な自然環境を次から次へと消
失させる、日本という国家に捧げるこれは小さな疑問符である。
 
あとがき 自然へのまなざし
 
 15年来の友人・吉見光治との対話は楽しく、いつも沖縄の自然と生態に関わる内 容になってしまう。私が仕事の上で模索しているサンゴ礁の海と島
の関係を話すと、彼はマングローブの生態を、そこに住む生き物達の生活をとうして 解き明かしてくれる。彼のマングローブにおける撮影と観察は、
私の疑問であったサンゴ礁の海と島の関係に大きなヒントを与えてくれた。
 八重山地方は、時間当たり雨量の非常に多い地域なのに、その雨水のもたらす汚濁 をサンゴ礁の海に流さない。島には大変許容量の大きな水浄化の
働きが備わっているのである。それがマングローブやサンゴ石灰岩地質・有孔虫の死 骸で出来た白砂のビーチおよび砂丘などである。それらの自然環
境が北半球最多の種類を誇るサンゴ礁の海を育み創りあげてきた。
 これらサンゴ礁の海と島の仕組・生態が、公共事業という名の開発によって崩壊し つつあり、今後も継続されようとしている。沖縄の生態系の崩壊
は、最も美しいところから、海の中から始まった。私が潜り初めてから18年、なん と多くのサンゴ礁が滅び去っていったことだろう。
 崩壊は徐々に陸域まで広がり、目にまぶしい白砂のビーチが赤茶色に染まり、川や 地下水を汚し、豊かな保水力を持つ山にまで迫りつつある。もは
やそれは取り返しのつかない崩壊であり、消失なのだろうか。
 焦りにも似た私のエコロジーへのアプローチとは違い、吉見光治の視線は、自然へ の慈しみと優しさにあふれ、生命の不思議をかいま見た者にのみ
与えられる自然への認識そのものとも言えるであろう。これは、誰でも始めることは できるけど、誰もがたどり着けるものとは限らない、人間が自然
を観察したのではなく、自然と向き合って生きた吉見光治を、自然が認めてくれた証 としてこの本は生まれた、と言っても過言ではない。

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