意見陳述書


1997年1月29日 陳述者 玉城長正

写真はともに平良克之氏

国の天然記念物 絶滅の危機にされされているヤンバルクイナ


林業の名目で皆伐採されるイタジイの木、やんばるの森林

 沖縄・山ばる・海(かい)代表の玉城長正です。

 私は、1974年から1994年8月まで沖縄県鳥獣保護員を勤めながら長年ノグチゲラ、ヤンバルクイナなどやんばるの動植物の観察を続けながら、やんばるの山の移り変  わりを肌で感じてきました。飛べない鳥ヤンバルクイナとの付き合いは20年になります。

 車もめったに通らない林道は、朝夕には彼らの散歩道であったり、小さな水溜ま り  や池ほどの水辺では、朝日を浴び、水浴びをするヤンバルクイナがよく見られました。 出会いの初回は、警戒心も強く付き合いにくいのですが、数回もすると慣れてきます。

 お互いに無視するように背中合わせでいると、わずか数メートルの距離で羽繕いしたり、ひなたぼっこをしたり、一本足で直立したり、なかなか面白いしぐさをして楽しませてくれます。
林道のカーブするたびにクイナの姿がよく見られたあのころのことは今ではまるで夢のようです。
 やんばるの山地の特異性は、小さい島の一部限られた地域に多くの個有種や依存種、さらに分布の北限種や南限種など学術上貴重な種が分布、生息していることです。

 固有種だけでも192種に及びます。これらの生物を育んできたのが、我が国土では随一残されている亜熱他の照葉樹林の自然林です。
世界に誇る固有の島、やんばる山地は、まさに激烈といえるほどに変貌を遂げ蝕まれてきたのは、1972年、沖縄の「祖国復帰」以降の、沖縄振興開発特別措置法に基づく国からの高率補助金による公共事業で島は一変しました。
狭小な山地での開発は、土地改良事業、畜産基地建設、草地開発事業、森林伐採、ダム建設、林道建設などで多くの森林が失われてきました。

 1980年代はすさまじい勢いで自然林が大面積皆伐されました。
森林の乱伐、過伐による森林生態系の破壊は国内初め、国外の学者や研究者、文化人そして県民に対し衝撃を与えてきました。固有の生物を育んできたやんばるの山地は、開発の嵐の中で瀕死の状況でした。
自然保護運動が高まり、国内や国外から学者や研究者、自然保護運動家などがやんばる山地を視察に訪れました。
1985年3月、日本生態学会、32回大会で東洋のガラパゴスの命名者である伊藤正春・聖母女学院短期大教授は、「得意な自然はガラパゴス以上に興味あるもの。

 今のままの開発では滅びる要素がある。
これは沖縄、日本だけの問題でなく世界の琉球でなければならない」と報告されています。1985年11月には、オーストラリア・J・Dオビントン自然保護局長が現地を視察しています。
無計画な森林伐採に驚き「林業サイドで計画を立てるのではなく、地域の人達のアイディアを取り入れるべきだ」とコメントしました。

 1986年2月、中村芳男林野庁中央森林審議委員が現地視察をしました。
「昔からあった木や森を保護し、昔から生息している動物を守ることが結局はその村の人々を守ることになる」1986年11月、国際鳥類保護協会副事務局長であり、レッドデータブックの責任者である、イギリスのナイジェル博士が国頭山地を調査しました。
「イギリスには固有種がいない。ヨーロッパ全域でも2、3種しかいないのに、わずかケンブリッジぐらいの狭い国頭山地に固有種が多いのにはびっくりした、宝の山である」。
1つの地域で5種類ものレッドデータブックに登録されことは世界的にも前例がなく、開発で野生生物の生息地は年々減少していることが世界的に公認されたことになります。

 1987年1月、環境庁長官、国頭山地視察し、「これだけの宝、絶滅させたら申し訳ない、先進国として恥ずかしくない保護をしなければならない」長官の訪問は今後の保護行政に大きな影響を与えそうだと期待されました。
しかし、やんばるの自然破壊はとどまるところを知りませんでした。

 1994年5月開通した大国林道は、森林と河川環境に支えられて生存したきた多くの生き物の生息地を分断し、減少させ環境悪化を招いています。新緑の芽吹く季節(2月)は、ヤンバルクイナの恋の季節です。
つがいを求めて活動範囲も広くなると、林道を横断するクイナが車にひき殺される事故もこの季節には多くなります。
梅雨期の林道を走ると、ヤンバルの住人達、シリケンイモリ、ヤマガメ、イシカワガエル、イボイモリなどの死骸はいたるところで目撃されます。

側溝に落下して死亡していくヤンバルクイナのひなやヤマガメなど、多くの小動物の被害も後を絶ちません。
また、低木や林床で生活するホントウアカヒゲは、野性化ネコの絶好の餌になっています。
哺乳類のいないやんばるの森は、ヤンバルクイナにとって天国でした。

舗装整備された大国林道には、多くのオートバイや車が乗り入れ、騒音と排気ガス、ゴミをまき散らし、ヤンバルクイナ、アカヒゲなどの天敵になる野性化ネコ、イヌ、マングースなどの進入を許し、ヤンバルクイナは滅びる運命にあります。
さらに、平成5年から着工された、北進道路、奥与那線は森林生態系や希少生物の生存に壊滅的なダメージをを与え絶滅に拍車をかけることになります。

 拡大面積の皆伐は平成元年以降減少傾向にあります。
どうして大規模林道が必要なのでしょうか。長年、やんばるの自然と貴重性と自然破壊を常に指摘し続けてきましたが、沖縄県は全く有効な対策を講じないばかりか、やる気配もありませんでした。
今のやんばる山地は、ヤンバルクイナよりもブルドーザが多いという話がよく聞かれます。
 
 96年10月、沖縄県は絶滅の恐れのある野生生物レッドデータブックおきなわを発行しました。
これによりますと、絶滅危惧種130種、危急種403種、希少種482種となってります。
実に驚くべき数字の記録です。レッドデータブックの記載は、私たちの自然を破壊し、野生生物の生息地を奪ってきたことを示す恥ずかしい記録だと思います。

 沖縄の固有の生物を育んできたやんばるの山は、森林伐採、造林、下刈り、間伐、除伐をするために林道を建設するという公共事業の中で、今、瀕死の状況にあります。生物の宝庫として価値観はだんだん失われていくばかりか、やんばるの自然、古里の山々、貴重な共有の財産が失われようとしているのです。

 今日まで、長年かけてありとあらゆる運動を展開してきました。
裁判官におかれましては、私たちのやむにやまれぬ気持ちを分かっていただき、世界に誇る固有の動植物を育んでいるやんばるの貴重な自然を未来の世代に引き継ぐためにも、賢明なるご判断をされることを期待します。
よろしくお願い申し上げます。