米軍の危険な海上演習による弊害

1997年12月18日
米軍のパラシュート降下訓練、真下に漁船がいることを知りながら真上で降下した

漁船までわずか20mの近距離に着水した米兵と、動力付き回収ゴムボ−ト船。

米軍演習で危険にさらされる漁民
 (那覇防衛施設局は隠蔽工作に追従)

 平成9年12月18日午前、沖縄市漁協所属遊漁船「勝丸4.48トン」の船長・伊波乗勝さんはいつも通り釣り客を乗せ津堅島近海にいた。3度ほど漁場を変えて正午ごろ、岩場にアンカーを入れ停泊した。すると1キロほど離れたところで米軍のゴムボートが5隻停泊しているのに気付いた。伊波船長はその時初めて「米軍の訓練かも知れないと思った」という。
午後2時30分ごろ、米軍の輸送機が飛んできて1キロ以上離れたところで最初のパラシュート降下が行われた。「勝丸」船長は、「その時点で初めてパラシュート降下訓練だと分かったが、しかし、この距離なら大丈夫だろうと考えた」という。

漁民の安全確保しない米軍
 その後、輸送機は大きく旋回して2度目の降下があった。パラシュート兵は漁船から500メートルの距離に降下してきた。船長は不安になって監視とパラシュートの回収などにあたる米軍のゴムボートの方を見たが、彼らからは何の反応もなかった。

あわや大惨事
 それから数分後、輸送機は再度大きく旋回し、「勝丸」の真上に飛来。ハッチが開き最初にゴムボートが、それと同時に黒っぽい物体が高速で海面に落下。続いて兵士がパラシュートで降下してきた。高速落下する物体の認識は困難だったが、細長い黒っぽい物だった。「勝丸」から前方約50メートルの至近距離に落下し、ドーンという音と共に3〜5メートルの水飛沫があがり、沈下した。兵士は漁船を取り巻くように20メートルという至近距離に着水。船はこのような事態を回避する時間もなかったという。
もしも降下兵や落下物が漁船を直撃していたら大惨事になっていただろう。目撃者は漁船の船長と7名の釣り客である。全員恐怖感を覚えたという。

内容を隠した「通知」
 日米間における津堅島訓練海域の取り決めは、
@本区域が使用されていない時には、漁業又は船舶航行に制限はない。
A本区域が使用されている時であってもその使用を妨げない限り、漁業又は船舶の航行に制限はない。
B本区域を使用する際は七日前に予告する。

の3点である。那覇防衛施設局から12月4日付けで、「在日米軍の水面を使用する演習について」という通知が沖縄市漁協に届いているが、その中では「水域名:津堅島訓練水域」「日時:12月15日〜19日(0001〜2400)」「演習内容:一般演習」というくらいの記述しかされておらず、広い訓練水域のどこでどんな演習が行われていのか、具体的内容は一切記されていない。
通知文書は漁協の掲示板に張り出されるが、見落としてしまう漁民も多い。
18日当時、防衛施設局が監視船と呼んでいる米軍の回収船(ゴムボート)が5隻もいて、米軍側は「勝丸」が停泊していることも知っていた。であるにもかかわらず警告の1つも無く、降下訓練が漁船の真上で行われた。

食い違う説明
 
12月22日、沖縄市漁協、沖縄市、勝連町、与名城村、中城湾沿岸漁業振興協議会は合同で、この事件の再発防止と安全管理の要請をアメリカ領事館と那覇防衛施設局に対して行った。アメリカ総領事館のロバート・ルーク総領事は「落下物に対しては、『軍から食べ残しのようなものが入った箱を落とした』と報告を受けているが、再確認して報告する」と対応した。
那覇防衛施設局の大東調整官は「事前に通報してあるのだから危険な訓練水域に入るほうに非がある。また、落下物に付いては米軍からは何も落としていないと聞いている」と主張。しかし、私が「乗船していた人たちが落下物を目撃している」と追求すると、大東調整官は「米軍に再確認して報告する」と答えた。
「単に『一般演習』と書いてあるだけではどんな訓練なのか分からないのではないか」とのわれわれの問いに、那覇防衛施設局側は「実弾演習以外はすべて一般演習になる施設局にも米軍からは『一般演習』としか報告されていない」とあくまでも施設局は受け身であると説明した。後日、アメリカ総領事館から「落下物は食料箱だった」との報告が沖縄市漁協にあった。
 
今度は通知無しで演習
 この事件があって間もなく、またもや県民無視の米軍の演習の実体が発覚した。12月29日、30日の両日、事前通知もなく米軍ヘリコプターによる海上訓練が実施されたことがマスコミ報道で明らかになった。30日夜、沖縄市漁協の上間正吉組合長自宅に大東調整官から電話が入り、「確かに事前通報もなく演習が実施された。遺憾であり謝罪する」と語ったという。その際に大東調整官は「落下物についてアメリカ総領事館の報告は間違いで、米軍からはやはり何も落としていないとの報告だった」とアメリカ総領事館からの回答とはまったく異なる回答を寄せた。
明らかに米軍は事実を隠蔽しようとしている。そして、那覇防衛施設局は米軍の隠蔽工作に追従していると言われてもしかたがないだろう。

 12月29日、30日の通知無しの訓練についても1月16日、再度合同で要請した。アメリカ総領事館は「訓練海域を管理している海兵隊に空軍が許可を取って訓練を実施することになっているが、海兵隊と空軍との連絡ミスで那覇防衛施設局に事前通報が届かなかった。今後このようなことのないようにする。謝罪したい」と話した。
那覇防衛施設局側も同じように「遺憾に思う謝罪する」と語った。しかし、前回の「落下物はない」とする報告について問いただすと大東調整官は米軍の回答を繰り返すだけだった。「漁船の船長と7名の釣り客が、ゴムボートの他に高速で落下し沈下した物体を確認している」と詰め寄ると、ついに同調整官は沈黙してしまった。

 「訓練海域の安全管理は米軍が行うのか」と問うと、同調整官は「安全を確保するために漁協に対して通知しているのだから、危険な海域に入る時には十分に注意して入っていただきたい」「漁民以外の船舶に対する安全確保は海上保安庁にも事前通知している」「米軍の演習で漁業者の操業に支障が出ることについては漁業制限補償として補償金を支払っている」などと説明。同調整官の「補償金」発言に対して上間組合長が即座に「この問題は補償金の問題ではない。漁業者の安全確保の問題だ」と切り返した。
「海兵隊が海上の目印に使用しているシーマーカーの海洋生物への安全性は確認されているのか」との問いに、同調整官は「国内の自衛隊や海上保安庁などで広く使用されているものと同じであり、無害と認識している」と述べた。

書面での回答さける施設局
 中城湾沿岸漁業振興協議会の事務局長が「われわれは文書で要請しているのだから、あなたがたの回答も文書で」と要求すると、「施設局に来る全ての要請に対する回答は口頭で行っており、文書での回答は前例がない」と要求を拒否。

海上安全神話はすでに崩壊
 名護市辺野古沖にもし海上基地が出来れば、当然、空軍や海兵隊による海上訓練の回数や人員も飛躍的に増えるだろう。操業中の漁船の頭上を戦闘ヘリコプターが頻繁に飛び交うことになり、周辺海域はますます危険な海域となる。今、安易に語られている「海上なら安全」という神話は、中城湾で操業する漁業者から言わせるとすでに崩壊しているのだ。


雑誌 「魚まち」掲載原稿 編集部承諾済み
執筆 ページ責任者