意見陳述書


      陳述者 莇 和義 1997年5月28日

貯め池をつくっただけの沈砂地   撮影: 平良克之氏
 原告の莇和義と申します。

 私は千葉県の農家の出身ですが、幼少の時から海が好きで、海には特別な思いを寄せて育ちました。
一時期、東京で会社勤めをしていた時もありましたが、1972年沖縄が日本に復帰した年に、最初は観光旅行でこちらにまいりました。
 当時の記憶として、あまりにも見事なサンゴ礁を初めて目にしたときの感動は今でも鮮明に覚えております。 
沖縄の海に魅了された私はそのまま永住を決意しました。
そして、働きながら海に出か ける生活していましたが、次第に好きな海で仕事がしたいと思うようになり、1978年沖縄市漁協の漁師さんに沿岸漁業の手ほどきを受け、1980年に念願の小型船を購入して正式な組合員となりました。

 当時はどの漁業組合も活気に満ちあふれ、私には漁業が天職とも思えていました。 
 私が赤土などの土砂汚染の被害に気が付いたのは、1983年頃だと思います。
それ以前にも雨が降る度に、何度も海が土砂で濁り、操業が出来なくなる事もありましたけれど、当時は一時的なものと思い、沿岸漁場にこれほど深刻な被害が広がるとは思ってもいませんでした。

 気が付いた時にはかなりのサンゴ礁が死んだ後でした。そして、サンゴ礁が死んでいくと、周辺海域の魚も減少していく事に気が付きました。 
魚とサンゴ礁の関係は共に共存関係にあります。魚にとって浅瀬のサンゴ礁は身を守る隠れ場所でもあり、また産卵する場所でもあります。
生まれた稚魚はサンゴが出す粘液や、サンゴ礁に集まるいろいろなプランクトンを補食して育ちます。またこのような小さな魚を補食しに大きな魚も集まってくる場所でもあり、南西諸島のサンゴ礁は魚が生まれ、育ち、集まる、大切な海産資源の再生産の場所でもあります。

 沖縄県は本土復帰後25年間も、南西諸島の気候風土を配慮しない公共事業のやり方で、とりわけ辺野喜土地改良事業に代表されるような農地造成を行ってきたために、われわれ沿岸漁業者にとって大切なサンゴ礁に壊滅的な打撃を与え消滅させてきました。
その為に、沿岸海域の魚が減少の一途をたどり、県下各漁協の沿岸漁業に多大な損失を与えています。
よく、魚の減少は漁師の乱獲によるものだと言う人もいますが、漁業者は経済的価値のない魚は捕りません。
そのような魚はあまり減少しないはずですが、サンゴ礁が死滅してくると、大きな魚の補食対象となる漁獲対象外の魚まで減少してきます。

 われわれ沿岸漁業者にとって、漁場は生活の場であり働く場所でもあります。平成7年度の統計によれば、現在沖縄県の沿岸漁業を営む35漁業組合の内、29漁協が事業利益による赤字経営に苦しんでおります。

 これらの沿岸漁協の累積 赤字合計は、昭和51年度が2億2300百万円だったのに対し、平成7年度は30億4300百万円にまで膨れ上がっています。この金額は事業外収益として米軍の制限保証金が添付された金額ですので、この補償金を除いた本来の漁協事業の累積赤字合計は更に大きな金額になっているはずです。

 ちなみに、平成7年度分だけでも、赤字経営に苦しむ29漁協で、米軍等の補償金を除いた本来の事業累積赤字合計は約5億8700万円にもなります。この経営不振の原因には、いろいろ取り上げられますが、なんと言っても最大の原因は、サンゴ礁の死滅による沿岸漁場の荒廃によってもたらされた経営不振であることは明白であります。

沿岸海域から水揚げされる漁獲類は、漁協経営の根幹をなすものであり、漁獲量の減少が競り市場取り扱い利益の大幅減少となって、漁協経営に重くのしかかっております。
 今までに、土砂汚染による漁場の荒廃で多くの漁業者が沿岸漁業に見切りを付け、多額の借金を背負い大型船を購入して、マグロやカツオを釣る沖合漁業に転向していきました。

漁業そのものを辞めていった人たちもけして少なくありません。カツオやマグロだけでは漁協の競り市場は成り立たず、沿岸の操業者数の減る事による、沿岸漁獲量の減少で更に追い打ちをかけ、漁協経営を圧迫する結果となっています。
このような、将来的に希望をもてない現在の沿岸漁場に、若い後継者も育たず各漁協とも高齢化が深刻な問題となっております。

 付け加えれば、私自身、今まで19年間沿岸漁業を営んで来ましたけれど、これ以上、従来のような沿岸漁業を続けて行くことが極めて困難となり、やむなく沿岸漁業から撤退する決意をしようかと考えています。
土砂汚染や各種開発工事による漁場の荒廃によって、 好きな沿岸漁業を断念せざるを得ないのは、漁業者にとって身を切られる思いであります。
私のような思いをもつ漁業者はたくさんいます。
このような、沖縄の気候風土に適さない間違った設計で施工する公共事業が今後も続けば、土砂汚染による沿岸漁場の荒廃が更に広がり、強いては各漁協の存亡にもつながります。

 以上の理由から、雨が降る度に海域漁場を破壊するような公共事業は辞めて欲しいという思いで、その農地開発事業の代表として辺野喜土地改良事業に支出した県費の返還を住民訴訟として法廷で求めることにいたしました。            
                                                                以上です。